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「斎藤教授のホンネの景気論」第84回「米日中の財政出動で霧は晴れるか ――『第2の不確実性の時代』と甚大な副作用」

 90年代に冷戦終結そして新興経済の参入によって、市場経済が全開して世界経済に構造的変化が生起し、そこに「構造的不均衡」が発生、金融危機そして経済危機につながったわけだ。

ただ、フィッシャー総裁自身は上記のインタビュー記事で、「2010年には緩やかなペースながら、景気回復に向かう。それはシュンペーターの『創造的破壊』が生起するからだ」と、先行きについて楽観的な見通しを語っている。

「呼び水」

だが、それは東名、名神、山陽、東北など、「地下水脈」の可能性を持つ、経済的ポテンシャル・ゾーンに限られる。

とはいえ生活利便性をある程度まで担保するのは政府の義務でもあるから、景気浮揚効果とは異なった視点から、シビルミニマムとして別途検討、議論すべきだということ。

 以上の財政支出の波及パターンはケインズ経済学誕生から70数年経つ現在でもまだ定式化、理論化されていない。しかし、少なくともこれまでの実践的経験から、規模が大であれ、小であれ、公共事業など財政出動は、一般的には「短期的一時的回復」の効果しか持ちえず、せいぜい2〜3年程度の浮揚に終わる。巷間バラマキ効果といわれるゆえんである。

オバマ大統領は巨額な財政出動が生み出す巨大な財政赤字を放置できないことを理解しているから、3年後の11年から次期大統領選のある12年には財政赤字を半減し、財政健全化への方向を定着させるための政策運営を強く意識する。とすれば、実弾投入の09年、10年は景気回復を演出できるが、実弾の切れるその後の期間をいかにクリアするのか。

「持続的回復効果」をもたらす起爆剤をいかに仕組むかだ。ここに国民、産業界、そして市場を米国経済の復活に向けてけん引する、「希望の御旗」が必要になる。これがグリーン・ニューディールであり、次世代電力網「スマートグリッド」 だ。

だが、冷静に考えれば、グリーン・エネルギーが開花し、次第に生産・生活シーンに浸透し、従来のエネルギー構造を転換させるに至るまでに、最低でも10年前後の歳月が必要ではないのか。

このため、オバマノミクスによる景気浮揚効果は、「短期」と「長期」に期待できるが、「中期」はいわば底ばいの停滞に陥るとみられる。

 さらに、日本の財政出動が短期的なカンフル効果しか持ちえない、政治経済学的というか構造的な「桎梏(しっこく)」が厳存している事実も無視できない。それは明治維新以来の中央集権制のもとで、中央政府の予算が「霞が関」によって、既得権益構造に沿って支出されるように仕組まれていることだ。そのため、財政支出がその規模の多寡にかかわらず、効果的に波及し、浸透するように使われてきていない。この財政支出の配分構造や仕組みを転換しない限り、たとえ「地下水脈」につながり、新たな需要を喚起する内容を持つ財政出動であっても、結局はバラマキという「一時的効果」で終わってしまう

 58兆円の巨額な財政資金の大半は、公共事業や各種補助金を通じ、これら生産性が低く、半失業状態の労働者に対する、生活保障的な社会的支出に向かう。この点から財政出動は景気の過度の落ち込みへの「歯止め」効果を持ち、経済安定化に資する。すなわち、今次世界危機による輸出減に伴う社会的摩擦(失業の発生、生活難など)や、格差を背景とした社会的対立、政治的騒乱などは、基本的に抑制されよう。だが、これが中国の沿海部の成長エンジンを再駆動させるには至るまい。というのも、中国では個人消費の比率が何と36%と極めて低く、内需型経済への移行は簡単ではないし、時間がかかるからだ

前代未聞の財政金融政策の展開によって、戦後のケインズ理論やその後のマネタリスト理論など、主流を形成した経済学や経済思想が「万能神話」が揺らいで相対化してしまい、分析や政策提案が説得性を持ちえなくなっている

前代未聞の危機が発生したが、その波及経路さらに副作用を透視する経済学は存在していないのだ。書棚の経済学は「新しい世界経済構造」を対象にした知的体系ではないからだ。

http://d.hatena.ne.jp/d1021/20090426#1240718607
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20090330#1238365327
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20090118#1232280685