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〔BOJウォッチャー〕日銀が「デフレ」認定、金融市場の安定確保に政策余地も

 物価をめぐる日銀の見通しは、1)前年の石油製品高騰の影響が薄れるため、消費者物価指数は来年初にかけてマイナス1%程度まで縮小する可能性が高い、2)その先も、マクロ的な需給バランスの改善に伴い、下落幅は徐々に縮小していく、3)ただ、経済の持ち直しテンポが緩やかなものにとどまるとすれば、物価の下落圧力もある程度長期間にわたって残る可能性が大きい──と緩やかだが物価下落が長期間継続する可能性があるという内容だった。


 つまり下落圧力はそう簡単には解消しないので、2011年度以降もマイナスは残るかもしれない、ということだ。この見通し自体は市場や政府の認識ともそう大きな違いはない。にもかかわらず、日銀がこの見通しを強調すればするほど「縮小していく方向」がクローズアップされ、「日銀は甘すぎる」と批判にさらされるジレンマに陥っていた。

 今回もこれまでと同様の見通しを示したものの、より踏み込んで発言することで「日銀も決してデフレを軽視しているわけではない」という姿勢を全面に出したと言えそうだ。これを後押ししたのは、急激な円高の進行との見方もできる。白川総裁は会見で「ここにきての追加的な円高は、回復途上にある企業マインドに影響を与える可能性がある」との懸念を示した上で、「最近の為替相場の地合いは不安定化している」と踏み込んだ。


 白川総裁は、先行きの金融政策のスタンスに関し「日本銀行としては、経済・物価情勢、あるいは金融情勢を丹念に点検し、常に予断を持つことなく中央銀行として最も適切な金融政策を運営していくことに尽きる」と述べ、この先の政策変更の余地に含みを持たせた。さらに「政府との間で十分な意思疎通を図った上で、最終的に日本銀行の判断において金融政策を行っていく」と述べ、中銀の独立性に立脚して政策判断していく方針を示した。

 また、白川総裁は長期国債の買い入れ増額の可能性について問われると「日本銀行としては、その時々の金融・経済情勢を踏まえ、最適な政策を常に考えていく」とかわしたものの、「資金を潤沢に供給していくために、どういう調節の枠組みがもっとも適切かということを常に考えている。それを将来にわたって考えている」とも述べ、これから何もしないのではないか、という市場の一部の思惑もけん制した。

再送:白川日銀総裁記者会見の一問一答

 ──米国経済動向について


 「米国経済の総括的な判断としては持ち直しているということだ。景気の落ち込みから上期に大きく減少していた輸入は、7─9月に個人消費の増加や在庫調整の進捗を背景に、自動車や工業用原材料など幅広い品目で増加している。こうした中、わが国の米国向け輸出も増加している。米国経済は持ち直しているとはいえ、依然、需給ギャップが大きく、企業は雇用の増加に引き続き慎重だ。厳しい雇用所得環境は当面続く可能性が高く、家計部門の支出抑制にもつながり、景気の回復テンポを穏やかなものにすると考えている。もうひとつ注目するのは、金融システムの動きだ。米国の金融機関の収益は、投資収益の増加から改善傾向にはあるが、商業用不動産価格の下落などを背景に、高水準の信用コストが続いている。こうしたもとで、金融機関の融資姿勢は、このところ改善方向にあるとはいえ、依然として厳しい状態にある。先行き、金融部門の信用仲介機能が円滑に働かない状況が長期化すれば、経済活動に対する下押し圧力が長引くリスクがある」


 「円高の方だが、先週後半にかけて円高が進むという事態が生じた。こうした円高が経済に及ぼす影響についてだが、ここにきての追加的な円高は、回復途上にある企業マインドに影響を与える可能性があるものとして認識している。今、われわれ自身の景気判断が変わったということではないが、マインド面に与える影響については、しっかり見ていく必要があると思う」

 

 ──大手製造業の持ち直しの中小企業への波及をどう考えているのか。鳩山政権の政策をどうみているのか。


 「経済はすべて関連しているので、まだ水準的には低いが、大企業の持ち直しは方向としては、中小企業にも波及していくという性格のものだというふうに思っている。ただ、現在、中小企業が直面している問題は、単に景気の局面でおきる現象だけでなく、もう少し、それぞれの地域での問題も反映していると思う。景気の要素の方については、それなりに影響が及んでいくと期待している。ただ、後者の問題については、経済全体のさまざまな取り組みの中で、変化をしていくという性格のものだと思う」


 「鳩山政権の政策について私が中央銀行の総裁という立場でコメントすることは適切でない。日銀としては、物価安定のもとでの持続的な成長経路への復帰というということを中央銀行の立場から、全面的に、これを支えていきたいと思う」

 
 ──午前の講演で、総裁としてデフレとの認識を示したと理解していいのか。今週、鳩山総理と会うとのことだが、どういう話をするのか。


 「最初の質問だが、前回の決定会合終了後の会見でも言ったが、物価情勢に関する認識について政府と日銀の間で認識は同じだ。今日言ったことは、持続的な物価下落という意味で、緩やかなデフレ状況にあるという見解、この点については政府と日銀が示す見解、これは同じだ。政府と間で十分な意思疎通を図っていくということは大事と考えている。いろいろな場がある。日銀法に基づくものとして、日銀金融政策決定会合への政府の出席、そこで表明された意見の議事要旨の公表もそうだ。私も政府と意見交換の場を持ちたいという希望を伝えているし、政府からも意見交換したいとの要望あった。意見交換の場が設けられることは望ましい。色々な意見交換の機会を通じて、政府の経済・物価の見方をうかがうとともに、日銀の見方をしっかり伝えするということ。政府との間で十分な意思疎通を図ったうえで、最終的に日銀の判断のうえで金融政策を行っていく。物価安定のもとでの持続的成長に復帰していくよう適切な金融政策につとめていくということを説明することになると思う」

 

 ──政府から一段の金融緩和の声が強まっているが。


 「日銀としては、経済、物価、金融情勢を丹念に点検し、最も適切な金融政策を運営していくことに尽きる。常にそうした姿勢で臨むことが大事」

 
 ──講演で、金融緩和を粘り強く続けることが為替にも影響を与えるといっていたが、そのメカニズムは。


 「為替市場について中央銀行総裁として、あまりこと細かにコメントすることは、市場の憶測を呼ぶので控えたい。ただ、中央銀行は極めて低い金利を維持することを発表しているが、そうした政策方針が十分に、正確に理解されれば、それは為替市場にもその影響が及ぶだろうと、そういう趣旨で言った」

 

 ──先ほど、金融市場が再び混乱すれば、果敢に行動すると言っていたが、国債買い入れ増額も選択肢に入るのか。その際に障害になるかもしれない銀行券ルールがあるが、それに抵触する可能性をどう考えるか。為替介入は行われていないが、日銀として、市場介入ではないが、外債購入が選択肢になるのか。


 「一問目だが、先ほど言ったことに尽きている。日銀としては、その時々の金融経済情勢を踏まえて、最適の政策を常に考えていく。ふたつめだが、障害との発言があったが、我々自身は資金を潤沢に供給していく、そのためにどういうふうな調節の枠組みが最も適切かを常に考えている。それを将来にわたって考えている。その障害は、日銀が定めている障害ではなく、中央銀行に課せられた使命である円滑な金融調節を行っていくうえで最適なやり方を追及していくということ。何か、それ以外に障害があるということではない。中央銀行の使命遂行ということに照らして判断をしていくということ。3つめの為替介入だが、介入は政府の責任でなされるもので、日銀がコメントすることは適切でない。為替市場介入の代わりとして外債購入を考えたらどうかとの質問であるなら、それは日銀法で、為替レートの誘導ということでの外貨の買い入れは、政府が行うと法律に書いてあるので、日銀としては法律にしたがって行動する」

 
 ──今の円高について、日本の金融システムへの信頼性の高さの裏返しかと見れる。円高に進むことが日本経済に対してマイナスなのか。


 「為替相場の水準について中央銀行総裁の立場で評価するということは避けたいと思う。日本の金融システムがこの1年どう推移したのかいうことで言えば、前回会見でも言ったが、リーマン破綻以後の日本の金融システムは、非常にそれ以前に比べて、不安定な要素を抱えたのは事実。だからこそ日銀は金融機関保有の株式を買うなどまで踏み切った。踏み切ったということは、日本の金融システムに対する、そうした評価があったということ。一方、危機の震源地だった欧米の金融機関と比較すると、相対的には日本のシステムが頑健だったとの評価が可能と思う。これは色々な指標で確認できるが、信用スプレッドとか、短期市場の緊張度を表す指標、いずれをみても、日本は欧米対比でずっと安定していたと言える。欧米は銀行貸し出しが、この1年間で急速に落ちているが、日本では、この先、伸び率は低下すると思うが、危機発生後、上昇し、その後、少し下がりということ。しかし1年間みて、貸出の伸び率が低下したということではない。こうした動きからみると、欧米対比、相対的には安定していたという評価は可能と思う。ふたつめだが、水準評価はされるが、為替市場の変動、ボラティリティが高まるのは、これは望ましくないと思う。G7の声明に書かれている通りであり、G7の各国政府・中央銀行の意思でもある。最近の為替相場の地合は不安定化しているというふうに思っている。今後の為替相場の動向と影響については関心を持ってみていきたい」

 

 ──鳩山総理との会談について、官房長官量的緩和含めて意見交換すると言っているが。これも話題になるのか。ドバイショックが与える日本の金融システムへの影響どうみるか。


 「前者だが、日銀は現在、潤沢に資金供給しており、金融市場の安定に努めている。金融市場は生き物なので、市場の安定確保のためにどういうやり方がよいかは、常に考えていきたいと思う。今、日銀は量的に潤沢に資金を供給する姿勢にある。2つめのドバイの件だが、詳細なコメントは控えたいが、日本の金融機関との関連だが、BISの国際与信によると、世界のアラブ種長国連邦むけのエキスポージャに占める邦銀のウェートは、相対的に限定的だ。今後のわが国金融機関への影響及び国際金融情勢に及ぼす影響について注意深く見ていきたい。最後に、世界の金融システムということになるが、G20の共同声明では、その意思として、国際金融システムの安定に努めていくということが明らかにされている」

 
 ──外債購入について、為替介入の代わりに行うのは日銀法で認められていないとのことだが、積極的資金供給を行うための手段としても、日銀法で否定されているのか。


 「法律の解釈なので、私自身が、解釈はこうだと言うのが良いのかどうか分からないが、日銀法に規定しているのは、為替レートの水準への影響を目的とする、そうした介入については、日銀は行うことができないと規定しているものとして理解している」

〔焦点〕一段の円高なら介入不可避の情勢、問われる日本の為替政策

 「ドル/円のプライスをお願いします」――。日銀の担当者が複数の国内外金融機関に連絡を入れたのは、ドルJPY=が14年ぶり安値となる84.82円をつけた27日午前。当局と外為市場関係者は、普段から現在の取引状況や見通しなど情報を交換をしているが、この日は日常の連絡ではなく、取引を前提に現在のレート提示を求めるものだった。金融機関が提示したレートに買いの意志を表す「マイン」と返せば、2004年3月16日以来5年8カ月ぶりの為替介入。ある関係者は「あまりに久々のことで、平静を装ってはいたが、正直どきどきしていた」と振り返る。しかし、続いた言葉は取引のキャンセルを意味する「ナッシング」だった。


 日銀がレート提示を求める際に出した買い注文が比較的小規模だったことなどから、多くの関係者は介入を匂わせるレートチェックどまりで、今回の当局は「本気」ではなかったと見る。だが、前週末の市場では「ついに当局が動き始めたらしい」との観測が次第に広がり、ドル/円に買い注文が殺到。急速な下落の直後で、輸入企業や政府系色の強いとされる国内大手投資家などがまとまった買いに動いた観測もあり、ドルは86円前半まで一気に1円超急速に反発した。

 藤井裕久財務相が「臨機応変な対応」のひとつと指摘する7カ国財務相中央銀行総裁会議G7)声明ですら、本格的なドル安/円高の歯止めはならない見通しだ。「中国人民元の切り上げやドル基軸通貨体制のゆらぎなど、いわゆる『脱ドル』の大きな流れが、現在のドル安の底流にある。共同声明が出れば投機筋はいったん売り仕掛けを控えるかもしれないが、大きな流れに変化がない限りドル安が止まるはずがない」(邦銀プロップ)という。

 為替アナリストの間では、民主党が実際に内需拡大路線を押し進めるなら、通貨市場では円に上昇圧力がかかりやすくなるとの見方が一般的。財務相政権公約マニフェスト)を踏まえる形で、就任時から急激な変動に対処する以外の為替介入に否定的なスタンスを示してきた。しかし、現在のドル/円の下落基調は、テクニカル上の下抜けとなったことと相まって、歯止めがかかる気配に乏しい。

 政府・日銀は今回、介入を見送ったのか、見送らざるを得なかったのか――。ある関係者は「両方の側面があるのかもしれない。しかし、日本株の下げが続けば、経済全体への影響を遮断する狙いで為替に『実弾』が入ってくるだろう」(先出の外銀チーフ)とみる。

WRAPUP1: 円高対応で政府・日銀に共同歩調の動き、白川総裁は機動的対応を表明

09年度第2次補正予算は当初想定していた2.7兆円より強化すること、円高に対して歯止めをかけること、日銀とも協調してこの問題に対処できるよう努力することの3点で基本合意した。