しかし、全部で3兆6000億円にもなるという科学技術予算は本当に有効に使われているのだろうか。
研究開発の費用対効果を測ることは大変難しい。1000万円の予算で行った研究が100倍の10億円の予算を使った研究の成果を上回ることもある。100億円かけた研究開発プロジェクトが完全な失敗に終わることもある。
しかし、ある組織の研究開発活動をまとめた段階で、費用対効果は正しく測られるものだ。
民間企業における研究開発に比べれば、国立研究所や大学の研究開発の費用対効果はかなり低いだろう。
大学よりひどいのは国立研究所の研究の生産性かもしれない。
研究開発には研究・開発・実証・普及の4段階があって、後段階になるほど難しくなるのだが、研究所の研究者は、一生ずっと、このうちの第1段階しか行わない場合が多い。
今の時代にコンピューターのスピード競争にいかほどの価値があるのか再考するべきだろう。
このプロジェクトの前身は「地球シミュレーター」のプロジェクトだった。約500億円で建設した日本最速のコンピューター「地球シミュレーター」を使って、どんな研究成果が出たのだろうか。その成果は、初期投資額500億円とその後投じられた運営費に見合ったものだろうか。
東大に初めてスーパーコンピューターが導入されたのは1983年10月だった。
東大に導入された日立製作所製の初めてのスーパーコンピューターを使って論文を書いた第1号は私ではないかと思っている。
スーパーコンピューター全盛時代は、この時から15年間、つまり1998年頃までではないかと思う。
そして今、研究開発の現場で一番活躍しているのは、パソコンとサーバーである。今10万円で買えるパソコンの性能は、すべての面で1983年に初めて東大に納入されたスーパーコンピューターの性能をはるかに超えている。
数値モデルが進歩しなければ、演算速度だけ高めても意味がない。
事業仕分けの次に行われなければならないのは、戦略的な事業企画である。
戦略的な事業で最大のものは環境分野になるだろう。3つの理由がある。国際競争が最も激しい分野であること、産業と雇用を創造する力が最も大きい分野であること、地球の全体最適に貢献する分野であることである。