「かつては戦争でご子息を亡くされたご夫婦がいらっしゃって、お国のため散ったご子息とかぶせるのでしょう。松王丸がわが子を差し出す場面で、涙されていたのをありありと覚えています」
しかし客席に遺族の姿も消えた。身代わり劇への受け止めの変化も感じ、現在は「人間は誰かの礎の上に生かされている」と解釈。古典芸能の枠に縛られ過ぎず、心理描写を重視した「演劇としての歌舞伎」を意識し演じているそうだ。
歌舞伎座との別れを「肉親に別れを告げる気持ち」と表現するが、その最後の舞台を孫・松本金太郎(菅秀才)との共演で締めくくる。「これぞ歌舞伎、伝承と思います。ヨチヨチでも二本足で歌舞伎の世界を歩いてくれれば」