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ひとインタビュー 仲代達矢さん

役者にとってうれしいのはセリフに嘘(うそ)がないこと。映画のメッセージを、セリフではなく構成で伝えようとしているところがいいんです。だから内容に厚みがある。

家族愛、家族の絆(きずな)、血のつながりが大事だと口にするのは簡単ですが、意外にそんなに生易しくはない。

僕は現場で監督と打ち合わせをしたことがないんです。小林監督も必要以上に役者に話しかけない。春役の徳永えりさんにも「なるべく人と話すな」と。そういうところは往年の名監督たちに通じるものを感じました。黒澤明監督も三船敏郎さんとあまり仲良くしなかったし、僕も常に切られ役だったから三船さんとはほとんどしゃべりませんでした。今は撮影が終わるとみんなで飲みに行ったりしますが、昔は、撮影中は役のポジションを考えて共演者と付き合え、と言われたものでした。

つまり、役者が自然に言えるようになるまで、徹底的にセリフを考えてくれるわけです。役者が観客に一番近い存在とわかっていたからこそ、役者を大事にしたし、決して妥協して前へ進むようなことはしなかったですね。

現場の雰囲気は監督によって千差万別なのですが、何があっても自分のイメージを貫き突き進む、その信念や映画への姿勢は共通していました。

いくらキャリアがあり、技術があるベテランでも、鮮度を失うと役者としての生命は絶たれます。新人は何もなくても鮮度があるからいいんです。お客さんが僕の芝居を観てくれる限り、鮮度のある役者でいなければと肝に銘じています。

老いた今こそ自由を手に入れた気がしています。青春というものは実に息苦しい。若い頃は「役者としてもっとうまくなりたい」「お金を稼ぎたい」「世の中に認められたい」など、そんなことばかり考えて非常に窮屈でした。でも、今はそんな気持ちは全くない。役者人生もそろそろ到達点にきたんだから、あとは自由自在に生きたい。心が解放され、のびのびした気持ちです。