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【日曜経済講座】編集委員・田村秀男 円高デフレ、無力化した日銀

 だが、グラフを見ていただきたい。銀行は今や日本国債への「投資ファンド」と化している。預金はコンスタントに前年比で十数兆円増えているものの、貸し出しは前年比で10兆円前後減り、その代わりに保有国債を前年比で30兆円前後も増やしている。民のカネを民に還元せず、国家に回す。これで銀行の社会的使命が果たされているというなら日本は社会主義国家である。


 10年前、預金に対する銀行の貸出金比率は95%だったが、最近は72%程度に下がっている。地方金融を担う信用金庫の中には預金と市場から調達した資金を有価証券で運用し、高収益を挙げる例もある。これでは雇用人口の7割を引き受けている中小・零細企業にカネは回らない。経営が黒字でも、事業縮小や雇用削減に追い込まれる。

 諸悪の根源はデフレにある。高まるデフレ圧力の下で企業の借り入れ意欲はなえ、企業は設備投資や事業拡張を見送り、手元資金を蓄える。消費者は節約に努め、貯蓄に励む。

 民間では企業も個人も、金融機関も、それぞれにとって最適だと思う選択に徹しているのだ。このため、デフレ不況は深刻化し、経済社会全体が沈む。経済学ではそれを「合成の誤謬(ごびゅう)」と呼んでいるが、国際金融ルールはそれをただすどころか、逆に悪化させる。

 どうするべきか。答えは脱デフレの実現の一点しかない。

 投機筋は日銀の追加緩和策の限界を見抜いている。今さらではあるが、仮に日銀が長期国債を大量に引き受け、ゼロ金利に踏み切ったところで、これらの資金は米投資ファンドに流れ、円投機に回されるのがオチかもしれない。01年から5年間続いた日銀のゼロ金利量的緩和期では円資金が米住宅市場に流れ、消費ブームをもたらす要因となったが、「リーマン」後、米住宅市場は冷えきったままだ。円の行き場は通貨や原油穀物、金などの国際商品しかない。

 14日の民主党代表選の結果、菅直人首相、小沢一郎前幹事長のいずれが首相の座に就こうとも、国内で有り余るカネを国内需要の喚起や新成長分野に行き渡らせ、循環させる緻密(ちみつ)な政策を実行しなければ、デフレからの脱却は望めない。小沢氏が指摘する大掛かりな積極財政に打って出ようとも、菅首相が官僚案を寄せ集めた「新成長戦略」を打ち出そうとも、デフレから抜け出すという道筋を明確にできなければ、絵に描いたもちに終わる。