8月29日の日曜日、内閣府計量分析室はそのインターネット・ホームページの「経済財政政策関係公表資料」コーナーの「計量経済モデル資料」にさりげなくある資料を追加した。「経済財政モデル(2010年度版)」と銘打ってあるが、「新成長戦略」と財政健全化シナリオ「財政運営戦略」を動かす羅針盤のようなものである。
乗数効果とは財政支出や増減税の結果、どれだけ景気や財政収支上の効果があるかという予測値で、財政の指針になる。「官僚の中の官僚」である財務省が並み居る官庁エコノミストたちをけ散らし、計量経済モデルを采配(さいはい)するゆえんである。菅首相は財務相時代の1月下旬、参院予算委員会の質疑で乗数効果について答弁できず、立ち往生した。以来、菅氏は財務官僚に操縦されるようになった。
この計量モデルについては、1月5日、当時の鳩山由紀夫首相が宍戸駿太郎筑波大学名誉教授らの批判を受けて、内閣府に見直しを命じたいきさつがある。
計量モデルというものは前提条件をいじるだけで乗数効果の予測は大きく変えられる。自民党政権時代の大物首相は時折、口をはさんだ。
1997年の橋本龍太郎内閣による消費増税やその後の事実上の所得増税、引き続く公共投資削減など緊縮財政のもとで、デフレが慢性化し、税収が減り続け、雇用も財政も悪化の一途を辿(たど)ってきた。