政治資金を巡る事件で強制起訴された民主党元代表の小沢一郎被告(69)の裁判では、収支報告書の記載について元秘書の石川知裕衆議院議員らから報告を受けていたかどうかが最大の争点になっています。
石川議員らは、捜査段階では「小沢元代表にうその記載を報告して了承を得た」と供述しましたが、裁判では調書の内容は事実とは異なると主張しています。
このうち石川議員の供述調書について、東京地方裁判所の大善文男裁判長は17日、「検察官が取り調べで『小沢元代表の関与を認める供述を維持すれば、小沢元代表を起訴しない』という見通しを示したことは強力な利益誘導で、うその供述を導く危険性が高い取り調べだ。違法不当なもので、許容できないことは明らかだ」として証拠として採用しない決定をしました。
また、小沢元代表への報告を認めた池田光智元秘書の供述調書も「取り調べに利益誘導があった」と指摘して採用しませんでしたが、一部については「取り調べに問題はなかった」として採用しました。
これによって小沢元代表の関与を示す直接的な証拠はほとんどなくなり、有罪を主張する検察官役の指定弁護士は、立証の柱を失ったことになります。
指定弁護士は「元代表がいる法廷で不利なことは証言しにくい。証言も自身の公判からさらに元代表に迎合した内容になった」として、採用を求めていた。
静まりかえった法廷に、大善裁判長の声だけが響く。「任意性も特信性(特別に信用する事情)もない」。事件の中心を構成する石川被告の調書が次々に却下され、指定弁護士の大室俊三弁護士は手元の資料にメモを走らせる。対面にいる元代表の弘中惇一郎主任弁護人もあわただしく資料に目をやる。小沢元代表は表情を動かすことなく、前を向いたままの姿勢を保った。
「主文を読み上げます」。大善裁判長は一呼吸置いてから、「採用」と「却下」の調書の番号を一気に読み上げ、「却下」が多いその番号を、指定弁護士、弁護側が懸命に書き留めた。
決定理由の朗読内容が一気に厳しさを増したのは、石川被告を担当した田代政弘検事(45)の取り調べ手法に対する評価に入った時だ。小沢元代表の起訴を示唆しながら供述を求めたことについて、「強力な利益誘導で、虚偽供述に導く可能性の高い取り調べ方法だ」と非難した。
田代検事が証人出廷した際に、「より真実に近い供述を維持するために行った」と釈明したことにも、「真相解明の熱意からだとしても、検察官の職責を考えれば違法性、不当性が減じるものではない」と、厳しい言葉を連ねた。
「強力な利益誘導」検察の取り調べを“断罪” 目を閉じ聞き入る小沢被告
「甲89号証、全部。甲90号証、全部。甲91号証全部…」。却下した調書の番号を次々と読み上げる裁判長の声だけが、緊張した法廷に響く。弁護団の一人は、傍聴席を見ながら、小さく何度もうなずいた。
食い入るように決定書を読む弁護団とは対照的に、小沢被告は背筋を伸ばした姿勢のまま、表情を変えることはなかった。
小沢氏への「報告・了承」調書を証拠採用せず 東京地裁 弁護側に有利に?
3月9日に論告求刑、19日に最終弁論が行われ、判決は4月下旬の予定。