100年前の失敗糧に軍縮進む欧州でなぜダボス会議の安倍発言は物議を醸したか|田岡俊次の戦略目からウロコ|ダイヤモンド・オンライン
ドイツはかつての敵国、近隣諸国に警戒心を抱かせさせないよう、ナチスの糾弾に努め、ナチス式の敬礼も処罰対象とするほど過去との訣別を宣伝し、領土問題でもプロシア発祥の地、まさに歴史的領土であるオーデル川、ナイセ川より東の地域10万3000平方キロ(統一ドイツの面積の29%に当る)を1990年に正式にポーランドに譲り渡した。統一前の西独の領土面積は戦前のドイツの42%だったが、1961年に戦勝国の英仏をしのいで、米国に次ぐ世界第2の経済大国になった。ドイツ人はその成功体験から、領土と国力はさほど関係が無いことを知っており、この地域の元住民の旧領回復を望む声を抑えてポーランドに譲った。
日本は戦前実質上支配下に置いていた満州を含めると、敗戦で領土面積は20%に減ったが、1968年に西独を抜いてGDP(国内総生産)で世界2位となった。だが領土を神聖視する観念は日本ではなお根強い。
ドイツはこうした現実的で聡明、果断な政策を取ったからこそ、ドイツ統一に対する近隣諸国の抵抗はほとんど生じず、強大な統一ドイツが生れても欧州諸国は急速な軍備縮小に向かった。