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焦点:ユーロの持続性確保、政治が最大のリスク | Reuters

ユーロ圏では債券市場が「根拠なき熱狂」へと回帰し、国ごとに足並みに乱れはあるが景気もゆっくりと回復に向かっている。単一通貨ユーロの長期的な持続を脅かす最大の要因は、経済から政治へと移ってきた。


5月25日の欧州議会選で反欧州連合(EU)票が大きく伸びたことで、多くの政府は財政赤字の削減と経済構造改革、さらにはユーロ圏の統合深化を推進しづらくなった。


欧州中央銀行(ECB)は追加金融緩和に踏み切ったが、ドイツ国民の抵抗が強いため、低インフレが長期化あるいは深刻化したとしても、米国型の資産買い入れによる量的緩和を実施するのは不可能かもしれない。


財政の健全なドイツが減税を実施し、インフラ投資や内需を刺激すれば欧州内の経済不均衡是正に資するはずだが、同国政府はそうした案にしり込みしている。


EU首脳らとECBは救済基金や財政規律の厳格化、銀行監督の一元化、事実上の「最後の貸し手」機能など、市場の信頼感回復に向け打てるだけの手を打った。


しかし経済通貨同盟(EMU)を完成させる政治的意思は、これまでになく弱まったように見える。EU条約の改正に国民の支持を取り付ける必要があるとすればなおさらだろう。


フランスの経済学者ジャン・ピサニフェリー氏は欧州議会選前に発行した著書で、欧州の指導者らはブリュッセルのEU本部にこれ以上権限を委譲することに消極的であり、欧州統合の深化をめぐる議論を避けたがっていると指摘した。


「ユーロ危機との戦いが国内の分裂を招いたことは既にはっきりしている。イニシアチブを取らなければ取らないほど、国内で政治問題を引き起こすリスクは小さくなる」という。


<経済の傷は癒える>


救済を受けた国々は、ギリシャキプロスを除き市場での国債発行が自由に行えるまでに回復した。ギリシャでさえ危機以来初めての5年債発行に踏み切った。


救済から3年、スペインの10年国債利回りは米国や英国並みまで下がった。


経済開発協力機構(OECD)の「ゴーイング・フォー・グロース」報告最新版によると、競争力の改善度合い上位5カ国のうち、4カ国は救済を受けたギリシャアイルランドポルトガル、スペインが占めた。


これら4カ国はいずれも単位労働コストを大幅に引き下げ、多額の経常収支赤字を一掃し、公務員給与を引き下げ、財政収支均衡でも進展を収めた。


残る大きな暗点が失業率で、スペインとギリシャではなお25%を超え、しかもその半分以上を若年層が占めている。


危機前よりもずっと重い債務を抱えてしまったのも共通しているが、EUの救済基金への返済期限が延長されたことで返済負担は軽くなっている。ギリシャについてはさらに延長される可能性が高い。


しかし楽観的なEU高官らは、ユーロ圏周縁各国が今後数年で最も活気にあふれた地域の一つになると話す。1990年代のアジア通貨危機後、国際通貨基金IMF)の厳しい経済改革を受け入れた韓国とインドネシアの成功に重ねているのだ。


しかし多くのエコノミストは首をひねる。ピサニフェリー氏は、南欧の脱工業化の流れを逆転させることはできないと言う。


<極右政党>


懸念の的は今や、ユーロ圏第2位と第3位の経済大国であるフランスとイタリアに移ろうとしている。両国は救済を受けず、あまり改革を実行してこなかった。


イタリアのレンツィ首相は欧州議会選で、与党苦戦という大勢にさからって躍進し、政治制度および労働市場改革を推進する上で大きな付託を勝ち得た。


しかしイタリア特有の不安定な政治情勢、物事を阻止する既得権の力、そして法制度の弱さを考えれば、レンツィ首相の行く手にはなお障害が多い。


最も厳しい事態に直面しているのはフランスかもしれない。欧州議会選でマリーヌ・ルペン党首率いる極右、国民戦線(FN)が勝利したことにより、オランド首相の社会党政権は、ようやく企業の税・規制上の負担軽減に取り組もうという正にその時に弱体化した。


オランド首相の不支持率は81%に達している上、地方選、欧州議会選と相次いで敗退したことで、投資回復と雇用創出に不可欠である改革を遂行するだけの力は奪われた。


国民戦線だけでなく、社会党内部の造反組を含む左派からも保護主義圧力は強まっているため、フランス政府はEUと米国との自由貿易交渉に反対する方向に動くかもしれない。


ギリシャ、そして同国ほどではないがスペインでも極左や財政緊縮に反対する政党が選挙で勝利を収めており、公共投資削減や不人気の経済改革の手を緩めるよう圧力が高まっている。


エコノミストのヌリエル・ルービニ氏は「緊縮財政と改革に対する社会的および政治的反発は、圧倒的な力を持つようになるかもしれない」と警告を発する。


イタリアのレンツィ首相は選挙勝利後の蜜月機関を利用して、EUにおいて新たな譲歩を引き出そうとするかもしれない。つまり、EUが勧告する経済改革を実行した国々においては、財政赤字の規則を修正して公共投資の余地を広げるというものだ。


EU首脳らは経済政策を緊縮型から拡張型にやや修正することでは合意できるかもしれない。それでもEMUの強化に必要な制度改革はこれまでになく難しくなったように見える。