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なぜ、東大、京大の入試に「統計」の問題は出ないのか? 【特別対談】東京大学・竹村彰通教授(第3回)|『統計学が最強の学問である[実践編]』発刊記念対談|ダイヤモンド・オンライン

――前回のお話を受けて、統計教育についていろいろと伺いたいと思います。大学での教育だけでなく、最近はMOOC(Massive Open Online Course、ムーク)というオンラインでの統計学の授業もありますね。


竹村 MOOCは「大学レベルの授業をインターネットで無料公開する」という主旨のもので、アメリカで昨年ぐらいからブレイクし始めています。今秋、日本でもMOOCの1つとして、「gacco」(ガッコ:主催NTTドコモ、NTTナレッジ・スクウェア株式会社)が始まっていて、私が講師を務める「統計学」も今年の11月からスタートしました。独自のテキストも用意し、反響などを楽しみにしています。
 もう1つ、統計学会は2011年から「統計検定」にも携わっています。受験者は、最初は学生が中心だろうと考えていたのですが、社会人の受験者が多いので驚いているんですよ。1級〜4級まであって、2級がだいたい統計学の基礎(大学の基礎)、1級が大学専門分野のレベルを考えています。


西内 私が知る限りでも、学生の時より、ビジネスマンになってからのほうが統計学を勉強する人がたくさんいますね。


竹村 たとえば、かつては工場で製品に不具合品が出たとき、その原因がたまたまの偶然でできたのか、機械の不具合が原因だったのか、その特定に統計の知識が必要だったからでしょうね。トヨタなどでは統計的品質管理の教育をさかんに行なっています。日本製品の品質向上の背景には、このような統計的手法があったことは確かです。アメリカは、ジャパン・アズ・ナンバーワンと言われた時代に日本のやり方を逆輸入しようとしたんですよ。


西内 そこでアメリカ人が驚いたのは、算盤と方眼紙ぐらいしかないような時代からずっと、日本の工場の現場ではボトムアップ式にみんなでちゃんとデータを分析し、それで品質管理をしている点だったそうです。アメリカは日本方式をマネしようとしたけれども、うまくいかない。そこでITを導入した。ボトムアップではなく、トップダウンで品質管理をしたところ、アメリカでも品質が上がるようになった。当時のモトローラなどがその典型ですね。

――なるほど。そうすると最近の統計学を取り巻く変化としては、以前はモノづくりの現場で品質管理として統計学を学んでいたけれど、いまやウェブ系、ITの人も必要としている。そう考えてよろしいでしょうか?


西内 それに加えてもう1つ、統計学への一般的な関心の高まりが背景にあると思っています。先日、ある相談を受けました。それは「社会人のための資格を勉強するウェブサイトを作りたい」というもので、数年前までは「英語と会計」に資格試験の人気が集中していたのが、いまや「英語と統計」に移っているというのです。優秀なビジネスマンにとって会計は必須教養ですが、それだけでは差別化できなくなっている、これからは統計力で差をつける時代だということで、受講者には「統計検定」を受けさせたいという話をしていました。


竹村 それはありがたい話ですね。そういえば、来年、早稲田大学政治経済学部の必修の講義に「統計検定3級」を使っていただけることにもなりました。1000人単位の採用です。オンデマンド講義、つまりコンピュータによる教育です。先ほどから話に出ていた統計学の先生不足も、eラーニングであれば問題ありません。

西内 ところで、小学校、中学校、高校では、この数年で教科書の内容が少し変わってきたように見えるのですが、どういう経緯で統計学が数学のカリキュラムに追加されたのですか。


竹村 日本ではゆとり教育が実施された際、統計学が10年ほどずっと教えられていませんでした。しかし逆にアメリカでは、その間に統計教育を充実させていたんですよ。アメリカでは大学に行くときにAP Statisticsという試験があって、統計学だけで10万人以上が受験します。合格すると、大学に入っても最初の統計学のコースを取らなくて済むので、高校生も必死になって統計学を勉強しておこうとするんです。


西内 10万人単位の高校生が統計を受験科目にしているんですか。


竹村 もう、日米では逆転どころか、完全に差がついてしまいました。文部科学省のほうも、あまりに差がありすぎるということで、カリキュラムの数学の中に「統計」を復活させたのです。ところがここに、思わぬ問題が出てきました。日本の数学の先生たちなんです。残念ながら、少なからずの先生が「統計」を教える自信がなく、なかには「受験から統計は捨てなさい」と指導をする先生まで出てきているらしい。予備校でも同じ状況で、今回「数学I」の中に「統計」が入りましたので、センター試験でも統計学は必修のはずなのに、予備校の先生でさえ教える自信がない。

西内 センター試験の状況は厳しいですね。では、東大をはじめとした個別の国立大学の入試では、統計は出題されているのですか?


竹村 現時点でわかっていることを言うと、「数学B」からは「統計」が出題されない方針です。文部科学省は今回の高校教科書の改訂で(2015年度〜)、「数学I」における「統計」の必履修化を決め、さらに「数学B」における「 統計 、ベクトル、数列」の3つを選定しました。なかでも「統計」は「数学B」の最初の項目として最重要視されています。それは今後の日本の国際競争力を再興していくためにも重要な決定であり、文部科学省は妥当な判断を下したと考えます。
 ところが、ここにも思わぬ壁が立ちはだかったのです。東京大学では2011年11月に、また京都大学では翌12月に「数学Bの入試にはベクトル、数列を出題する」と宣言し、事実上、統計を入試科目から除外してしまったことです。


西内 「数学と統計学は違う」という溝が、こんな形で出てきましたか。驚きですね。


竹村 「数学I」の「統計」は必ず履修しなければならない項目ですから、さすがに出題されます。けれども、「数学B」の国立大学の個別試験では「統計」は外されています。

――いま統計学会のホームページを見ているのですが、たしかに出ていますね。国立大学協会の会長宛に「数学の出題範囲に関する要望書」という文書が7つの学会長の連名で提出されています。竹村先生のお名前もあります。「統計を出題せよ」という強い要望書ではなく、「数学Bは、統計、ベクトル、数列の3つの範囲から出題し、2項目を選択解答する」という、実にリーズナブルな要望ですね。


西内 数学科で統計の問題を作るのが難しいなら、統計学者が入試問題を作れば済むことではないでしょうか?


竹村 いや、数学の問題は数学科の先生が作る、というシステムになっています。統計の問題を作ると、答えが一義に定まらないから採点しにくい面があり、たしかに数学者にとっては面倒な話ですね。それでも、東大の数学の場合はそもそも記述式ですから、解答の論理を追っていけば採点できると私は思うのですが、数学の先生方はそうは考えない。
 大学でさえこのような状況ですから、中学、高校になると、統計を教えることについては先生方が不安になる。「こう考えると、こういう解釈もありうるのでは?」「こんな変数を考えると、この相関は見かけだけかもしれない……」と、いろいろな解釈が出てくるようだと、授業で教える側は困るでしょうね。本当は、そのような思考ができることこそ、生きていくうえで大事なんですけど。

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