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一流の経営者はデータの向こうに現場が見える(上) 伊丹敬之・東京理科大学大学院イノベーション研究科教授|「プロ経営者の教科書」CEOとCFOの必修科目|ダイヤモンド・オンライン

イノベーションについて議論する時、それを生み出すための方法論、人的能力や組織要件が関心事になりますが、私はいま、「イノベーションに資する管理会計」を現場の技術者中心の社会人大学院で教えています。


 具体的には、イノベーション活動に不可避な3つの関門、すなわち、研究(R)と開発(D)の間に横たわる「魔の川」、開発から事業化の段階で現れる「死の谷」、そして市場競争によって選択か淘汰かの審判が下される「ダーウィンの海」を無事乗り越えるためのツールとして、管理会計の新しい活用法を模索しています。

 現場の技術者たちと議論してみると、日本企業のマネジメントの問題点の一つがあぶり出されてきました。それは「会計データ依存症」です。マネジメントの人たちが会計データに頼りすぎる、それがないと判断できない、不用意な使い方で現場を歪めるなど、そうした「依存しすぎ」の症状です。


 企業内部には、会計データのみならず、多種多様なデータが膨大に存在しています。ですが、ITのおかげで情報システムが飛躍的に進歩したため、必要なデータにたやすくアクセスできるようになりました。しかも、あまりに簡単に収集・加工・共有できるため、データがのさばり、人々を振り回しています。こうした状況は、規模の大きな企業ほど顕著です。

――かつて「勘ピュータ」といった属人的な意思決定への反省から、主要な経営指標を常時チェックしながら迅速に意思決定を下す「コックピット経営」の必要性が唱えられました。会計データ依存症は、こうした計数管理ツールの弊害なのでしょうか。


 いいえ、違います。さまざまな会計数値やデータを意思決定や業績評価に活用するシステム、すなわち管理会計システムは必須のものです。そして、そこから上がってくる会計データに基づいて合理的な判断を下すことも同様です。ちなみに、修羅場を何度もくぐり抜けた歴戦の経営者の勘ピュータは、けっしてあなどれませんよ。

 そこで私が申し上げたいのは、定量的な会計データを表面的に解釈するのではなく、その会計数値はどんな現場の実態から生まれてきたのかを考える必要がある、ということです。


 それには、現場の真の困り事、現場の雰囲気、現場の人たちの感情や癖などを会計数値から読み取るように努力しなければならない。定性的な要因が会計数値の背後にどううごめいているか、それを考えなければならない。
 言い換えれば、皆さん、すっかり会計データに頼り切って、現場の現実をちゃんと把握していますか、というメッセージでもあります。

――会計データを額面通りに見ていては、現場の実態は見えてこないわけですね。


 なぜそのような数値になったのか、その本当の理由を知るには、その会計データに隠されたメッセージ、つまり影響システムがどのように作用したのかを知る必要があります。なぜなら、会計データは現場の人たちの行動の集約結果で、実はその背後には彼らの感情も詰まっているものだからです。


 会計データ依存症の危うさは、この影響システムという側面を軽視し、純化された数値だけで判断してしまうところにあります。


 かれこれ10年近く前になるでしょうか、スターン・スチュアートというコンサルティング会社が開発した「EVA」(Economic Value Added:経済的付加価値)という指標が世界的にもてはやされ、日本でもいくつかの有名企業が導入しました。最近では、再びROE自己資本利益率が注目されていますね。


 EVAやROEに限らず、こうした財務指標が金科玉条になる時、会計データ依存症が生じやすい。人は数字が好きですからね。だからこそ、気をつけなければいけません。冗談みたいな話ですが、事業部EVAの成績順で会議の席順を決めていた企業があったそうです。


 繰り返しになりますが、計数管理は経営者の重要な仕事の一つです。しかし、その数値に振り回されてしまっては本末転倒というものです。

――こうした最終的な数値だけでなく、そこに至るまでの業務プロセスや個々の作業を正しく把握するために「見える化」に取り組み、現場のパフォーマンス改善に役立てている組織が増えています。


見える化にも、管理会計システムと同じく、経営者や上司への情報システムとしての側面と、現場や部下への影響システムの側面が存在しています。


 前者では、現場の実態がいっそう明瞭になり、また各メンバーの仕事のやり方や成果も把握できるため、意思決定や日々の管理業務の質が向上することが期待されます。また、目標管理や業績評価などにも利用できます。


 後者では、自分だけでなく他人の成果も見えるようになりますから、各メンバーの競争意識が刺激され、個人差はあるとはいえ、みんな、以前よりも一生懸命働くようになると考えられます。


ところが、敵もさる者で、見える化が導入されると、必ず「見せる化」を始める人が出てきます。つまり、どうすれば上司の目に覚えめでたく映るのか、先回りして対策を講じるのです。


 そしてもう一つ、けっしてねつ造や不正ではないのですが、きれいな数字をつくろうとする。たとえば、今月は目標に届いていないけれど、来月は目標を超えそうだから、その分を前倒しで計上できるように工夫するとか。一種の逃げです。その結果、実態は歪められてしまう。


 そればかりではありません。なぜ今月は目標を達成できなかったのか、その理由はうやむやにされてしまう。もしかしたら重要な問題が潜んでいたかもしれない。あるいは、チャンスを逸していたのかもしれない。せっかくの学習機会なのに、もったいない話です。

http://d.hatena.ne.jp/d1021/20150404#1428143839
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20100423#1271980790
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20150403#1428057567
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20150308#1425810844
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http://d.hatena.ne.jp/d1021/20141206#1417862193
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