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マイナス成長が明確に示す経済政策の根本的誤り|野口悠紀雄 新しい経済秩序を求めて|ダイヤモンド・オンライン

 GDP成長率はマイナスになった。これは、「デフレ脱却を目標として金融緩和をする」というこれまでの経済政策の行き詰まりを明確に示している。「一時的」として無視するのでなく、経済政策の基本を転換させる必要がある。

 14年4〜6月期、7〜9月期のマイナス成長の原因として、一般に指摘されているのは消費税増税である。それは、否定できない。ただし、消費税増税だけが原因であれば、停滞がここまで長く続くことはない。日本経済を長期的に停滞させている原因は、消費税の増税ではない。


 今回のマイナス成長をもたらした原因は、消費停滞と輸出の落ち込みである。これらについて、以下に見よう。

 民間消費支出は、2014年4〜6月期に消費税増税の影響で大きく落ち込んだ後、15年1〜3月期までは緩やかに回復していた。


 しかし、4〜6月期で再び落ち込んだのである。これは、消費税増税以外の要因が消費を圧迫していることを示している。

 消費の落ち込みをもたらしたのは、実質雇用者報酬が4〜6月期に落ち込んだことだ(図表3参照)。これは、消費税増税とは異なる要因によるものだ。

 それまでは名目伸び率と実質伸び率の間に大きな差はなかったのだが、13年10〜12月期から、「名目成長率はプラスだが、実質成長率がマイナス」という状態が生じている。これは、円安によって消費者物価が上昇したからだ。

 以上の状況を見ると、実質賃金が増加しないことが、消費低迷の原因であることが分かる。消費停滞は、「インフレ目標」という経済政策の目的が誤りであることを示しているのである。

 対世界では、2010年の100から2014年の90.7に落ち込んでいる。すなわち、円安が進行したにもかかわらず、輸出数量は伸びていない。これは、世界経済が停滞していることとともに、円安は輸出数量を増やす効果がないことを示している。

鉱工業生産指数の動きも、図表7に示すとおり、はかばかしくない。


安倍晋三内閣成立以降の推移を見ると、2013年12月までは上昇が続いた。しかし、消費税増税の直前である98.1をピークとして下落に転じ、14年8月の96.7まで低下した。その後は、15年1月に100を超えたことを除くと、停滞が続いている。

 設備投資の国内回帰が生じているのは事実だ。しかし、鉱工業生産指数における上記のような状況を考えても、これが将来の需要増を見込んだ積極的な投資であるとは考えられない。一つは、更新投資であろうし、いま一つは、円安によって国内生産の優位性が回復したために、これまで海外に向かっていた設備投資の一部が国内回帰しているのであろう(なお、GDP速報では、1〜3月期には対前期比年率11.7%の増加となったものの、4〜6月には、マイナス0.3%とマイナス成長になっている)。


 円安を原因とした製造業の国内回帰現象は、リーマンショック前の円安期にも見られた。しかし、とくにエレクトロニクス産業では、「水平分業化」という世界的な潮流を無視して建設された国内の巨大工場が、その後の赤字の原因になった。


 今回の設備投資国内回帰についても、同じことが言えるだろう。これは、長期的に見れば、日本経済の構造転換を遅らせることになる。

 なお、労働需給の引き締まりが経済の好調の反映だとする意見が強い。しかし有効求人倍率の上昇などの雇用指数は、労働供給の減少による面が強いことに注意が必要である。

 8月14日の閣議に提出された2015年度の経済財政白書は、副題を「四半世紀ぶりの成果と再生する日本経済」とした。


 第1章のタイトルは「景気動向と好循環の進展」だ。ここで、「企業の収益改善が雇用の増加や賃金上昇につながり、それが消費や投資の増加に結び付く『経済の好循環』が着実に回り始めている」と述べている。


 その論拠として、(1)名目総雇用者所得が2013年3月以降、前年比でプラスが続いていること、(2)15年4月以降、実質総雇用者所得が前年比プラスとなっていることを挙げている。


 しかし、(1)について見ると、GDP統計における名目雇用者報酬の対前年比がプラスなのは、10年4〜6月期から12年7〜9月期においても見られることである。13年1〜3月期だけがマイナスになったのだ。


 また、(2)について見ると、GDP統計における実質雇用者報酬の対前年同期比は、10年1〜3月期から13年4〜6月期まで、プラスである(13年1〜12月期にもプラスだ)。これがマイナスになったのは、13年7〜9月期と14年1〜3月期以降のことである。この中には消費税増税前の期間も含まれていることに注意が必要だ。つまり、実質賃金の対前年比マイナスという現象は、安倍内閣になってから生じている現象なのである。そして、先に見たように、対前期比では、実質雇用者報酬伸び率は15年4〜6月期においてマイナスになっている。


 これらを考えれば、「企業の収益改善が……賃金上昇につながり、それが消費の増加に結び付く『経済の好循環』が着実に回り始めている」という白書の主張は、「詭弁だ」としか言いようがない。ましてや、マイナス成長に陥っている現在の日本経済の状態をなぜ「四半世紀ぶりの成果」と言えるのか、理解に苦しむ。


 本来、経済財政白書には、内閣の方針に左右されない客観的で冷静な分析が求められる。近年の白書は、そうした本来の責務を放擲し、内閣の方針の正当化を最優先の目的にしている印象を与える。

http://d.hatena.ne.jp/d1021/20150817#1439807852
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20150812#1439375682


#アベノミクス #経済統計