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コラム:中東外交の新たな「パラドックス」 | Reuters

思いがけず、中東に変化の風が吹き始めている。イラン核合意を受けて地域内外では、宗派間の緊張や衝突が激化し、イランとサウジアラビアの代理戦争が悪化するとみられていた。


米国内の強力な核合意支持者の一部でさえ、地域での勢力拡大を目論むイランの行動には断固たる態度を取る必要があると主張していた。


しかし実際にわれわれが目にしているのは、それとはかなり異なっているように見える。


中東全体に、新たな地政学的同盟関係が生まれる可能性が高まっているのだ。サウジとイラン両国で高まる過激派組織「イスラム国(IS)」への恐怖、シリアのアサド政権の弱体化、米主導の有志連合によるIS掃討作戦への参加を決めたトルコの政策転換、サウジとイランの対立激化を望まない米国とロシアの利害の一致などにより、政治的流動性が生まれている。


外交的な動きが加速すれば、米国と同盟諸国はイラクとシリアでの本格的なIS掃討に向け準備するだろう。有人、無人にかかわらず、有志連合の航空機がトルコの空軍基地を使用できることで、同盟諸国の部隊は、1年以上もISの支配下にあるイラクのモスル奪還のための大規模な地上戦に備えることが可能となる。加えて、シリアでは政治的将来が混迷を深めている。


外交攻勢の兆しが最初に現れたのは、オバマ米大統領ニューヨーク・タイムズ紙のコラムニスト、トーマス・フリードマン氏とのインタビューにおいてだ。大統領はその中で、イラン核交渉が大詰めを迎えたときのロシアの役割を誉めそやした。これに対し、昨年のクリミア併合に対する西側の経済制裁以降、敵対的だったロシアも次第に態度を軟化。ケリー米国務長官とロシアのラブロフ外相はその後ドーハで共にサウジ外相と会談している。その後、シリアの諜報機関トップがサウジの首都リヤドを訪れている。


新たな外交関係に極めて重要だったのは、過去数カ月におけるロシア・サウジ間の異例ともいえる度重なる交流だった。サウジのアブドラ国王が1月に死去した後、ロシアはサウジが対シリア政策を軟化させるか探っていた。一方、新サウジ政権はロシアがイランの地域政策を抑制することができるか試していた。特にサウジは、自国の安全保障を脅かしかねないイエメン情勢に注力していた。同国ではイスラムシーア派武装組織「フーシ派」が南部アデンを支配下に置いていたが、サウジはその背後にイランがいるとみていた。


イラン核合意を歓迎する意向をすぐにサウジが示したことは、新たな中東地域外交にとって意義深い。サウジ主導のフーシ派空爆が同派一掃に成功すれば、サウジは新たな地域外交を推進する上で自信を得ることになるだろう。


イランの行動については油断禁物だ。イラン核交渉では地域問題は協議から外されていた。しかし、オバマ大統領は核合意がなされれば、より広範な外交関係を築く余地が生まれると期待し、交渉の席ではこれまでの立場を覆し、シリア内戦の解決にはイランの強力が必要との見方を示した。


シリアはイランの支援なくして存続することはできないだろう。一方、イランと密接な関係を築いてきたイラクは先月、訪問中のカーター米国防長官に対し、ISに制圧されたアンバル州の州都ラマディ奪還作戦において、スンニ派民兵が重要な役割を果たすと保証した。これは以前から、米国とサウジがイラクに求めていたことだった。


果たしてイランの強硬派、とりわけ革命防衛隊がアサド政権を崩壊させる可能性があるような協力政策に従うかどうかはいまだ不明なままだ。ロシアも簡単にはアサド政権を見捨てることはできないはずだ。ラブロフ外相がISとの戦いでアサド大統領をパートナーとみなす発言をしていることからも、これは明らかだ。


しかしながら、シリアの内戦やイラクの弱体化が引き起こすさまざまな問題の解決策はいまだ見えていない。今後展開されるIS掃討作戦のスピードと成功の度合いが、決定的に重要な試金石となるだろう。ISを壊滅させることは困難かもしれないが、イラクとシリアでの同組織の支配地域をかなり短期間に取り崩すができれば、形勢は変わり、ISは相当な力をそがれることになる。


皮肉なことに、そうなればアサド政権は今よりも脆弱性が高まることになる。ISに注意を払う必要がなくなれば、反体制派の戦う相手はアサド政権に絞られるからだ。


これは究極のパラドックスと言える。イランとロシアを含む全世界を敵に回せば、ISは自らの首を絞めることになるが、そうなれば両国はアサド政権を見捨てろという圧力の高まりに直面することになるだろう。