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コラム:難民危機が変える欧州の「政治力学」 | Reuters

戦火のシリアからの大量の難民流入は、欧州内で大きな政治的亀裂を生んでいる。その結果もたらされるのは、反移民感情の高まりや欧州連合(EU)への反発かもしれない。欧州が直面する難民危機の状況をまとめた。


<数字だけで全体像は見えず>


欧州に流入する難民や移民の数は、絶対的数値で見れば必ずしも多くない。欧州対外国境管理協力機関(フロンテックス)の統計によれば、今年1─7月は約34万人であり、仮にその15倍だったとしてもEU人口の約1%にしかすぎない。


しかし、難民受け入れの負担は各国で偏りがある。シリアやアフガニスタンからの難民にとって欧州の玄関口となっているギリシャは、人口が1100万人と相対的に少なく、自国経済は苦境に陥っている。一方で、ドイツは今年80万人の難民を受け入れる可能性があるが、それは人口の1%程度だ。


難民の数が増えれば増えるほど、欧州の負担も増大する。フロンテックスの最新の統計では、難民の数は昨年の同じ時期に比べて約3倍に増えている。さらに、潜在的な難民の数はもっと多い。シリア周辺では400万人を超える人が避難生活を余儀なくされており、その一部は状況の悪化とともに移動を続けている。


<よみがえる過去の政治的不安>


EUは過去10年、移民問題とそれがもたらす経済的影響に対応してきた。2004年にEUが東方に拡大すると、中東欧諸国の労働者は各国に自由に行き来できるようになった。これが西欧諸国の一部では、雇用確保と賃金上昇への新たな脅威として映った。金融危機とユーロ圏債務危機で経済活動が停滞し、失業率が上昇して各種予算が削減されている昨今、新たな移民に対する意識は一段と過敏になっている。


<問い直されるEUの理念>


難民受け入れの大部分を引き受けている国は、受け入れを割り当てる「クオータ制」の導入に反対する国を非難している。これがEUの結束を揺るがし、EU創設の理念も問われている。例えば、EU加盟国の大半で移動の自由を認める「シェンゲン協定」に疑問が投げかけられている。また、移民第2世代や第3世代の一部が急進化しているのを受け、EU域内の多元主義に関する議論も難しさを増している。


<見えにくい経済的メリット>


EUは社会の高齢化が間違いなく進んでいる。欧州委員会によれば、65歳以上が人口に占める割合は、2013年は18%だったが、2060年までには28%に拡大する。80歳以上と14歳以下はほぼ同じ数になる見通しだ。


経済協力開発機構OECD)は、移民受け入れによる財政的影響は、特に労働市場に移民をうまく溶け込ませることができれば、多くの国で小さい傾向にあると指摘する。


しかしながら、この手の費用対効果分析は、移民の年齢が非常に低かったり、教育を受けていない場合は話が変わってくる。そうした移民を生産性の高い労働力に変えるためには、受け入れ国には先行投資が必要になる。多くの欧州各国は現在、そうした投資ができる理想的状況にはない。


<今そこにある政治的リスク>


難民問題は、フランスの国民戦線(FN)や英独立党(UKIP)など反移民を掲げる政党には追い風となるかもしれない。また、国境開放や責任分担といったEUの理念に対する反発を招く可能性もある。


特にリスクが高いのは、EU残留の是非を問う国民投票を実施する予定の英国だ。移民問題は英国の有権者にとって最大の懸案事項だ。反移民感情が高まれば、脱EUへの世論の支持がさらに高まる恐れがある。


<他の問題もこじれる恐れ>


難民や移民にどう対応するかについての議論は、投資家が注視するギリシャ債務問題など他の問題にすぐに直接影響することはない。しかし、予断は許さない。難民問題をめぐる不和は他の問題にも波及するリスクがある。そうなれば、将来の危機を回避するために必要なEUの経済的・財政的な結束強化は難しくなるだろう。

http://d.hatena.ne.jp/d1021/20150907#1441622437


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