https://d1021.hatenadiary.com
http://d1021.hatenablog.com

ビジネスパーソンも意識すべき日本と世界の深刻な「時間格差」 川本裕子・早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授|DOL経営解説委員会〜経営の達人が教えるリーダーの教養|ダイヤモンド・オンライン

 まず、世界との時間の「ずれ」についてです。通信社などでは、たくさんの翻訳者やマルチリンガル記者を抱えて、一瞬のうちに、世界のニュースを日本語で配信します。しかし、多くの人が使う英語から日本語になるのには、たとえ数十分、あるいは数分だとしても「翻訳する」時間がかかります。分析的な記事や複雑な出来事だと、もっと時間差があります。瞬時を争うビジネスマン、ビジネスウーマンの世界では、英語オリジナルからすぐに情報を得るべきでしょう。


 それでもニュースであれば、せいぜい数時間の遅れだと言えるかもしれませんが、世界で話題となった本の日本語への翻訳には随分時間がかかっています。たとえば、日本では2015年にブームになった、トム・ピケティの『21世紀の資本』は、もともと2年前の2013年にフランス語で出版されました。2014年3月に英語版が発売された時点で、すでに世界各所で大論争を生んだのです。2014年12月の日本語版発売時には、世界の議論はかなり収束していた気配もありました。

 最近、アカデミー賞の発表がありました。日本ではアカデミー賞のノミネート時点はおろか、受賞時点でも映画が公開されていない場合もあります。今年はレオナルド・ディカプリオが主演男優賞、ブリー・ラーソンが主演女優賞をとりましたが、彼らの出演作を含め、受賞4作品がそろって未公開でした。


 つまり、日本ではアカデミー賞作品を映画館で見る場合には、必ず受賞作だと知って見ることになります。「どれがよかった」「自分ならこの作品と俳優が受賞すべきだと思う」という楽しみは、日本にはありません。


 私にとって映画は、国際的な共通話題としても重要ですが、国際線の飛行機で運よく最新作に出合わない限り、新作映画に関する会話にも参加できません。

 海外のヒット・テレビドラマも、日本に入ってくるのは2年経ってから、などということもざらです。日本で待っているとはるか先になってしまうので、私などは待ち切れずに本国からDVDを買ってしまったりします。


 20世紀初頭から1920年代までの英国の階級社会の変容を描いた海外版大河ドラマ『ダウントンアビー』は、世界中で1億5000万人が視聴した大ヒット作になりました。「執事(バトラー)ブーム」なども巻き起こし、ロシアや中国、中東などでバトラーの需要が高まり、バトラー養成学校が流行ったりして、話題を呼びました。昨年末でシリーズは完結していますが、日本では今3年前のものしか視聴できず、国際的な趨勢からは隔絶しています。

 しかし、「翻訳」がつくり出す「ずれ」には常に敏感であるべきでしょう。翻訳では、内容が100%正確に転換されるわけではなく、言葉が変わることで自国のコンテクストで物事を理解する、ということになりがちなのです。翻訳では100%正確な転換が無理なので、自国の似たような言葉を引用せざるを得ないということもあります。


 それはまた、翻訳をする人が独自の世界を創り出す可能性が大きいということです。文学ならばそれもまた意味のあることかもしれませんが、政治・経済・社会といった社会科学について、自国なり自分の価値観を多く移入した翻訳は、正確な理解を阻む可能性も大きくなります。


 以上、まとめて言えば、完璧な翻訳というものはない、ということです。異なる言語を使う人々の間では、世界の見え方まで違います。認知心理学者によれば、言語によって世界の切り分け方が異なり、言語の違いは人間の認識・思考に影響を与えているといいます。


 わかりやすい例は色の認識です。青と緑を区別しない言語、また2つの色しか識別しない言語があるそうです。またイギリス人にとっての「オレンジ色」、フランス人にとっての「黄色」は範疇が広いので、日本人にとっての「茶色」が彼らには「オレンジ」や「黄色」と認識されているそうです。

http://d.hatena.ne.jp/d1021/20160317#1458211765
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20160316#1458125533