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裁判所は、おもに三つの受け皿を保有している。


ひとつは、政府の「行政委員会」などの委員ポストであり、もうひとつが、「公証人」ポスト。そして、簡易裁判所の判事ポストである。


現在、14の「行政委員会」などに18名の元裁判官が天下っている。


いずれもが、衆参両院の同意を必要とする重要委員会で、身分は、閣僚や政府高官などと同じ「特別の職員」だ。そこでの仕事は、国家公務員の倫理違反の有無を監視したり、労使間の紛争を解決したりと、担当する行政分野で必要な調査や勧告などを行っている。


これに対し、支払われる委員報酬は賞与も含めると年間で約1800万〜2800万円にのぼる。


この報酬額について、上田清司埼玉県知事が、衆議院議員時代に、高額すぎるとして問題にしたことがあった。ただし、当時と今では、報酬額は1割程度下がっている。


衆議院決算行政監視委員会で、上田は、委員会報酬を時給換算した数字を示し、こう質問した。


「総理大臣は年間支給総額を総時間で割りますと、時給に換算しますと1万5100円、これが総理大臣の時給であります」


そして、「中央更生保護審査会」「公害健康被害補償不服審査会」「社会保険審査会」などの年間の審議時間を示しながらこう続けた。


「これで、時給当たり換算すると、一番高いのが、1時間で43万7000円もらう方がおられるということになります」「それから他にも19万円だとか18万円。これは退職金も入っておりません」「各委員会の常勤委員の方々は、退職金が、一期3年程度で500万円いただける」('01年6月6日)


拘束時間が短く、高額の委員報酬だけでなく、退職金のおまけまでついているのだから、同委員ポストはもっとも優遇された天下り先と言えよう。

これら委員会のうち、初代から現在まで高裁長官経験者が委員長を独占しているのが「公害等調整委員会」だ。同委員長の年間報酬は約2385万円である。


この委員会は、「四日市大気汚染訴訟」や「水俣病訴訟」など、四大公害訴訟で裁判所が被害者救済に大きく舵を切ったことを契機に生まれた。


「裁判所が、一歩強力に踏み出さなければいけない。このままでいたのでは、それこそ国民が迷惑すると同時に、『裁判所は、何をしているんだ』と言われることになる」との危機意識から、被害者の立証責任を大幅に引き下げたのである。


第11代最高裁長官の矢口洪一は、自身の『オーラル・ヒストリー』でこう語っている。


「工場から本当に、その水銀が出て来ているのかどうかという因果関係の問題は、工場の排水口まで辿り着けたら、あとはいいんじゃないか、と。


大気汚染だって、四日市の周辺の人間が、みんな同じような難に遭っていたら、それこそ疫学的方法で、いいことにしたらいいじゃないか(とした)」


疫学的方法とは、病気の直接的な原因を特定できなくても、多くの患者の発病状況などを観察し、その原因を間接的に推認する方法だ。それを裁判上の証明に応用し、多くの患者を救ったわけである。


以来、同委員長ポストの国会同意人事は拒否されたことはない。

もうひとつの天下り先である公証人には、現在、139名の元裁判官が任命されている。全公証人497人中、約3割を占める人数で、あとは元検察官や法務省職員などからの任命だ。


公証人は、法務大臣によって任命される「実質上の公務員」だが、国から給与が支給されることはない。おもな収入源は、「取引に関する公正証書」や「遺言書」などの作成にあたって受け取る手数料収入である。ここから、公証役場(事務所)の諸経費を引いた残りが、公証人の収入となる。いわば、自営業に近い経営形態といえよう。


しかし各公証人によって、収入に差が生じることはない。元裁判官の多くが任命されている大都市の公証人について見れば、霞ヶ関向島など担当する地域で格差がでないよう、公証人会が自発的に収入を共同管理したうえで、経費を差し引いた額を均等に分配する仕組みをとっているからだ。


阪高裁管内の元地裁裁判長が言う。


「かつては、公証人の年収は3000万円を超えていましたが、いまはかなり下がっている。しかし、それでも年間で1500万円は下らないと聞いています。定年前の63歳で裁判官を辞めて、70歳まで公証人を務めれば、優に1億円の収入を得られる計算になります」

「行政官庁のように多くの天下り先をもたない裁判所では、大物裁判官の退官後の処遇先として、簡裁を受け皿にする以外にないのです。このほか、組織の新陳代謝のため、定年に近い大物裁判官に簡裁に移ってもらい、ポストを空けてもらっている。そうすることで、簡裁の充実にも繋がるというわけです」


簡裁の裁判長の定年は70歳なので、ここでも定年が実質5年延びることになる。


簡裁裁判長に転籍した裁判官には、給与とボーナスを含め年間約1534万円が支払われる。かりに5年つとめれば約7670万円。定年前に移籍し、8年勤務したとすれば約1億2000万円の収入となる。

当然のことながら、この他にも手厚い年金が支給される。


裁判官の給与はもともと高額のため、最高裁長官も、地裁の裁判長(判事3号)も、納める保険料は同じ上限額で、加入期間の違いが生じるだけだ。


最高裁長官と同判事の定年は70歳で、一般の裁判官は65歳のため、加入期間に5年の差が生じる。


その差を前提として、妻が専業主婦との仮定で試算すると、夫婦で受け取れる年金額は、最高裁長官や同判事は月額約36万6000円。高裁長官や地裁裁判長クラスで月額約33万9000円となる。


サラリーマン夫婦が受け取る厚生年金の平均受給額約22万円と比べ、約6割から7割近くも多い。