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筆者が驚いているのは、政治家による圧力になるのかどうかなどではない。


金融の専門家から見て、仮想通貨、そしてその背景技術であるブロックチェーンが、有用性、信頼性については、問題ありということで、もはや結論の出た、「終わった」はずの存在なのである。


にもかかわらず、世間では、この期に及んでまだ、現役閣僚や有名タレントが「積極的な」行動をとっているというギャップに愕然としたのである。

筆者は「仮想通貨」やブロックチェーン、そしてフィンテックについては、この欄で、昨年5月から冷静に事実を分析し、解説してきたつもりだ。


仮想通貨については、日本銀行をはじめ世界の当局が、「暗証資産」と再定義し、一般的な理解の法定通貨でも金融商品でもないことは明確になっている。また唯一の売りの安全性についても、実際にさまざまなトラブルが起き、問題があることが認識されている。


しかし、この間、公的な立場の方でも、仮想通貨は問題があるかもしれないが、ブロックチェーンは問題ないと主張する方が結構いた。「ブロックチェーン自体は安全」というが、現実には書き換えられるなどブロックチェーンの安全に対する信頼は揺らいでいた。


そして、とうとう、今年6月に出た、BIS(国際決済銀行)の「年次報告書」が致命的な欠陥があることを指摘したのである。

中央型(一元集中管理型クライアントサーバー)システムに比べ、ブロックチェーンを用いた分散型(分散台帳)は、遅い、効率が悪い、スケーラブルではない(データ量が増えると機能しなくなる、大量の処理でネットワークの混雑が発生する等)、莫大なエネルギー(電力)を消費する(多数のコンピュータを用いて演算を延々と行うために膨大なコンピュータの演算能力を消費するため)といった特徴がある。


金融取引などの処理や記録にこれを応用したシステムを導入すると、決して「安い、速い」になるはずがなく、「運営費用が高く、莫大な電力を消費し、遅い」になるわけである。さらに、BISの年次報告書では中央銀行デジタル通貨についてもかなり否定的な評論をしている。


このBISの年次報告書におけるブロックチェーンに対する評価の持つ意味は、非常に大きい。日本では、ブロックチェーンで送金が早く、安く(いつもだいたい1/10)可能になるとかという方がいたし、記事も見てきた。


現在、決済を始めとした金融取引にはブロックチェーンは向いていない、といわれている。まだ使える余地があるとしても、たまにデータを書き換える不動産の登記簿などぐらいとみられている。

仮想通貨については、日本では交換業者のうち、登録業者が16社あるが、そのうち、トップのビットフライヤーを始めとして7社が金融庁から行政処分として業務改善命令を受けた。


みなし業者も16社あったが、1社はみなし業者から除外され、12社は業務改善命令等を受け撤退した。みなし業者として残っている3社もすべて業務改善命令を受けている。


その厚い売買差益からの収益性の高さから、100社が申請中といわれているが、コインチェック事件から、新規登録は許されていない。最近の金融庁はきちんと強硬に対応している。


そもそも、仮想通貨交換会社は免許制になる予定であったが、政府がフィンテックというものを推進するために登録制になったといわれている。


それは欧州も同様で、ECB(欧州中央銀行)ドラギ総裁も仮想通貨には苦慮している。フィンテック(新産業)の育成という名のもとに犯罪の温床を残すべきかと、日本と同じ問題に直面している。

さらには仮想通貨を超えた「フィンテック」全体でも問題が散見されている。ネット経由で融資を仲介するソーシャルレンディングにおいて、いくつかの業者が行政処分(業務改善命令)を受けてきたが、最大手のmaneoマーケットまでも処分を受けた。


募集時の説明と異なる目的に流用されたのを見過ごすなど、管理体制に重大な不備があったため。流用額は少なくとも10億円以上で、焦げ付くおそれがあるということである。


フィンテックのなど新しい金融サービスは新たな担い手が登場している。ただ仮想通貨交換業者と同様、急激な市場の拡大に体制整備が追いついておらず、ずさんな運営実態も明らかになっている。当局も無理な拡大から、金融庁のように法に照らした対応を強化している。


筆者は新刊『決済インフラ入門2020年版』(東洋経済新報社)にも書いたが、金融にはどんなときにも守らなければならない2つの大原則があると考えている。


それは、善と悪を区別する視点(犯罪防止)とプロとアマチュアを区別する視点(利用者保護)である。


さらにいえば、今後の決済インフラをはじめとした金融の方向は、電子化・集中化・規制強化と考えている。


これは今までのフィンテック強化の流れと相容れるとは限らない。最近の決済インフラの改革の潮流は、銀行誕生以来の変革を金融機関にせまっている。


銀行を始めとした金融機関が近未来には業態転換が図られれると考えている。いうまでもないが、銀行自体も決済インフラである。


このようなフィンテックをはじめ、仮想通貨・ブロックチェーンに対する取り締まりが強まっている中で、野田総務大臣が仮想通貨に関する問題を起こしたのは残念である。逆に、金融庁は「圧力」にも関わらず、強硬に法を守った。これは素晴らしい対応であったと考える。