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中山信弘・東大名誉教授。ネット時代の海賊版対策には「マグロは捕まえ、メダカは逃がす」という工夫が必要だと語る。

――政府は反対の根強かったダウンロード違法化の対象範囲拡大を含めた著作権法改正案を、開会中の通常国会に提出することを見送りました。どう受け止められましたか。

 広すぎる規制には国民の反対が強かったので、見送りは妥当な結論だと思います。文化庁の案は、いま問題となっている漫画を中心とした海賊版サイトの対策だけではなく、違法にアップロードされた著作物の故意のダウンロードをすべて違法にするというものでした。「そこまで大きな網をかけていいのか」。共通認識はその一点でした。文化庁案はネット時代の自由というものを理解していないものであると感じました。

――名だたる著作権の専門家たちが連名で疑義を唱える声明を出したことは、法改正を進めようとしていた文化庁にとってもショックだったようです。日本漫画家協会などが次々と歩みをあわせ、法案提出が見送られるきっかけにもなりました。なぜ緊急声明の呼びかけ人となったのですか。

 我々は学者ですから、本来なら論文で反論するのが筋だと思います。でも今回は、文化審議会で議論が始まってからたった3カ月で全面的な違法化の方針が決まってしまい、論文を書く時間もありませんでした。そこでなんとか国会に提出される前に歯止めをかけようと呼びかけたのです。

 漫画を中心とした海賊版への対策をしなければならないという考えに反対する人はいないと思います。しかし、広く投網を掛けるのには抵抗がある。網を掛けるにしても、ネットにおける自由という観点からせめて網の目を大きくして、マグロは捕まえるけどメダカは逃がす、というような工夫が必要です。大きな魚も小さな魚も全部一緒くたにしてしまうのが、今回の法改正の一番大きな問題でした。

 そこで、緊急声明とともに、2次的創作物を含まない「原作のまま」で、かつ「著作権者の利益が不当に害される場合」のダウンロードに限って違法とする修正案を示しました。

――著作権法は、もともと「グレー」な部分が多く、すでに私たちは日常的に著作権侵害をしているのだから、違法の範囲が広がっても実態は変わらないのではないかという冷めた見方もあります。

 確かに、厳格に考えれば、我々は日常生活の中で日々、著作権侵害をしているでしょう。仕事に使うために無断で本や雑誌の一部をコピーすることも、懲役10年以下の刑罰の対象です。でも、これくらいなら許されるだろうという感じで、あるいは意識もせずに、誰もがやっています。今まで訴えられなかったということで救われているだけです。この予定調和のおかげで世の中がうまく転がっている。