https://d1021.hatenadiary.com
http://d1021.hatenablog.com

1日から始まった取り調べの録音・録画の義務化は元厚生労働省村木厚子さんが無罪になったえん罪事件などをきっかけにした刑事司法改革の柱の1つです。

殺人など裁判員裁判の対象事件と、検察の独自捜査事件を対象に原則として容疑者の取り調べのすべての過程の録音・録画が義務化されました。

検察は、対象事件のほぼすべてについて、すでに全過程を録音・録画しているほか対象以外の多くの事件でも積極的に取り組み、平成29年度の実施件数はおよそ10万件に上っています。

最高検察庁は取り調べをめぐるトラブルの防止に録音・録画は一定の効果を上げているとみています。

一方、判断が分かれているのは自白の場面が録画された映像を有罪の立証のために利用するかどうかです。

これまで映像が上映された裁判では、自白の様子などから被告の犯行を認定したケースが複数ある一方、印象に基づく直感的な判断になる可能性があるとして映像で自白の信用性を判断することを違法と指摘した判決も出ています。

検察は今後も必要性があれば、取り調べの映像を有罪の証拠として利用したい考えで、取り調べの映像を裁判でどう取り扱うべきか議論を深めることが求められています。

検察の取り調べの録音・録画は、裁判員裁判で検事が自白を強要したかなどが争われ、審理が長期化することを防ぐ目的で平成18年に試験的に導入されました。

検察は撮影の対象を容疑者が自白した理由を説明する場面など一部に限る一方、取り調べのすべての過程の録音・録画については、「容疑者の供述が得られなくなり真相解明が困難になるおそれが強い」として反対していました。

しかし元厚生労働省村木厚子さんが無罪になった事件や大阪地検特捜部の証拠改ざん事件など一連の不祥事をきっかけにした刑事司法改革で、裁判員裁判の対象事件と検察の独自捜査事件を対象に1日から原則として取り調べのすべての過程を録音・録画することがが義務づけられました。

検察庁は義務化された事件についてはすでにほぼすべての事件で全過程の録音・録画を行っているほか、それ以外の多くの事件でも試行的に取り組み、平成29年度の実施件数は全国で10万395件に上っています。

このほか被害者や参考人の事情聴取にも試行的に録音・録画を導入し、平成29年度には合わせて3445件で実施されています。

捜査機関の取り調べで自白した被告が裁判になって否認した事件では、検察が裁判所に取り調べを録音・録画した映像を法廷で上映するよう求めるケースがあり認めるかどうか裁判所の判断は分かれています。

最高裁判所によりますと、去年1年間に全国の地方裁判所で行われた裁判で、検察や弁護側が録音・録画の映像を証拠として法廷で上映するよう求めたケースは135件あり、このうち、裁判所が法廷で再生したのが83件、認めなかったのは36件、撤回が16件でした。

このうち川崎市の老人ホームの元職員が高齢の入所者3人を転落させたとして、殺人の罪に問われた裁判では、殺害を認める場面を含めた取り調べの映像がおよそ4時間分が再生されました。

被告側は「捜査段階の自白は警察などの誘導や圧力によるものだ」として無罪を主張しましたが、判決では、「映像からは警察官が高圧的な態度をとったり、厳しく問いただしたりする場面はみられない」などとして自白の信用性は高いと判断されました。

一方、取り調べの映像をもとにした自白の信用性の判断を否定した判決もあります。

栃木県の旧今市市で小学生が殺害された事件の裁判では、1審の宇都宮地方裁判所が取り調べの映像を法廷で上映し、自白は信用できると判断しました。

これに対し、2審の東京高等裁判所は、去年8月「取り調べの被告の映像を見ると判断する人の主観に左右され、印象に基づく直観的な判断になる可能性がある」として、映像によって自白の信用性を判断したことは違法だと批判しました。

そのうえで、状況証拠を総合すれば被告の犯行と認められるとして、1審と同じ、無期懲役を言い渡しました。

検察が取り調べの映像の上映を求めるのは客観的な証拠だけで有罪を立証することが難しいケースが多いとみられ、上映を認めるかは裁判ごとに判断が分かれているのが現状です。

1日から義務化される取り調べの録音・録画について捜査や裁判の中核を担う現場の検事はどう受け止めているのか。

NHKは東京地方検察庁の現職の検事6人から直接、話しを聞くことができました。

このうち1人は録音・録画のメリットについて「裁判で供述の内容が問題になったとき検証が非常に容易になった」と指摘し、別の1人は「自分の取り調べの映像が裁判で上映され、問題ないと判断された経験がある。録画しているかどうかで取り調べのやり方を変えたことはない」と述べました。

また別の検事は「10年余り前に、検察庁で録音・録画の試行が始まったあと、任官した検事も多く、録音・録画はすんなり受け入れられている。ホームビデオが定着した世代では自分の姿を取られることに抵抗がないことも関係していると思う」と述べました。

デメリットについては「弁護士を通じて共犯者に供述内容が伝わるのを恐れてか、一切しゃべらない人もいる。録音・録画がなければもう少し供述しているのではないかと思う」という指摘がありました。

一方、複数の検事が「裁判所は犯罪事実を立証する証拠としては録音・録画の映像を認めない傾向にある」という認識を示したうえで、裁判所の姿勢を「疑問に思う」とか「じくじたる思いだ」などと指摘しました。

さらに「裁判所が自白の映像を証拠として認めないことで被告が無罪になれば、国民の理解が得られない」とか「『自白の映像を裁判で使えなかったので無罪になりました』とは遺族に説明できない」などの意見もありました。

東京地方検察庁の久木元伸次席検事は録音・録画が取り調べに与える影響について「『暴力的な取り調べや誘導があった』などとして供述調書の任意性や信用性が争われても、映像を見れば事実が明らかになる点は、メリットだと思う」と述べました。

その一方、「暴力団や特殊詐欺グループのメンバーの中には録画されていると、組織の上位にいる関係者の関与を話しにくいと申し出る場合があるほか、それ以外でもカメラの前では自分や関係者の悪いところや恥ずかしいところを話しにくいという人もいる。そういう点は、事件の真相を解明する上でデメリットになっていると思う」と指摘しました。

また取り調べを録音・録画した映像を有罪を立証する証拠として使うことについては「映像には供述そのものだけでなく、取り調べの状況や容疑者の供述態度などより多くの情報が含まれている。映像を見て判断したほうが事実認定の正確性が上がる場合には証拠としての利用を検討すべきだと考えている」と述べました。

元検事の高井康行弁護士は「録音・録画を導入する際には、検事が自分をさらけ出して容疑者を説得することができず、取り調べが形骸化するという懸念があったが、実際、私が見た映像の中には、検事の取り調べが単なるインタビューになり真実を究明しようという真摯(しんし)な姿勢が伺えないものもあった」と指摘しました。

そのうえで、「検事は単に弁解を聞くだけでなく、真相を語らせるという強い意欲を持ち続けなければいけない。録音・録画された中での取り調べの在り方について検察全体としてきちんとした共通認識を作り上げてそれを実践することが必要だと思う」と述べました。

また、取り調べを録音・録画した映像を検察が有利な証拠として利用することについては、「取り調べでは容疑者が検事に迎合してうその供述をすることがあり、事実かうそかを見分けるのは難しい。映像はインパクトが強いので身ぶり手ぶりや声音などに引きづられて真実の供述と思ってしまうリスクがある。証拠としての利用は慎重でなければならならず、証拠とする場合も、供述態度や雰囲気はあくまで補助的なものとして判断する冷静な姿勢が必要だ」と指摘しました。