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「“次に何があるの?”という視聴者の期待感に訴えるボードをめくる演出とか、気象災害報道がぐっと増えたとか、古舘さんの時代にはなかった“ワイドショー”化が進んでいます。それを牽引しているのが、去年の7月からCPに就いている桐永なんです」

 と、テレ朝中堅局員。

 桐永CPは、1993年に早大社会科学部を卒業してテレ朝へ入社。学生時代は数多の政治家が輩出した雄弁会に所属し、同期には丸川珠代参院議員、大下容子アナらがいる。警視庁担当を皮切りにロサンゼルス支局長、警視庁キャップなどを歴任。

「彼がキャップ時代は、『姉歯』で知られる構造計算書偽造問題を熱心に取材していました。キーマンの潜伏先を独自に割り出してスクープしたりしてね。それから彼は編成に移って担当役員とやりとりする中で朝のワイドショーに抜擢。前身番組だと4~6%だったものを8~9%まで上げた。その功績が買われたし、本人が夜のニュース番組を希望していたということもあり、報ステの番組責任者が回ってきた」(同)

 別の幹部局員は、

「富川が16年4月からメインをやるようになって古舘さんの時と比べて2%くらい落ち、10%を切ることも頻繁に起きるようになった。それで、番組を立て直さなきゃいけなくなった。“11%は目指せ”と、早河さん(洋・会長)が白羽の矢を立てたのが桐永だった。早河さんは“番組にもっと軟らかいものを入れろ”とは言っていました。朝の情報番組はエンタメ要素が入っていますから、そのノウハウがある桐永に番組の再建を託したんです」

 と解説する。変わらないためには変わり続けなければならないのが人の世。看板中の看板番組に鳴り物入りでやってきた敏腕プロデューサー。古舘氏の衣鉢を継ぎ、政権にモノを言うスタンスを奉じる面々。水と油ではないけれど、両者の溝は埋めがたく、後述するが、それを象徴するような“事件”も起こっている。

 ともあれ、報ステにとって古賀氏以来の大“事件”の被害者である森アナは、キー局アナには珍しく茨城大教育学部卒。小学1年生ごろから17年に亘って剣道に打ち込んだ。170センチの長身が奏功したかは判然としないが、段位は四段。教師か警察官を目指していたものの、実姉の花子氏がNHKの局アナに内定したことが転機に。「姉みたいになりたい」と一念発起して10年にテレ朝へ入社し、「ナニコレ珍百景」「スーパーJチャンネル」などの番組を担当。プライベートではプロレス界のヒーロー、オカダ・カズチカ(31)とは「結婚秒読み」と報道されたが破局した過去がある。

 セクハラ事件のあった5月4日未明以降、森アナ自身も、そして森アナの被害を聞きつけた複数のディレクターも、相前後してテレ朝内のコンプライアンス統括室へ本件を相談した。しかし、コンプラが事態を重く見た形跡はない。あるいは過去に遡っての調査に時間を要していたか。そんなこんなで7月17日の“事件”を迎えたのである。

参院選の静岡選挙区(2人区)で、自民の牧野京夫に次ぐ2位争いを、立憲の徳川家広と、国民の榛葉賀津也とが争っていた。その際、菅官房長官が、“改憲勢力の榛葉を落とすわけにはいかない”と関係者に要請したという話が浮上したんです。これをテレ朝系の静岡朝日テレビが報じたのですが、報ステも追いかけようとした。丸乗りする格好でVTRまでまとめたものの、放送直前に桐永さんがお蔵入りにした。彼としては、独自にきちんと話の裏をとっていないニュースは流せない、という判断だった。VTRを作成した現場スタッフを、桐永さんは“そんなことをしたら番組の存続にかかわる”と怒鳴ったそうです」

 と、テレ朝関係者。

 先に触れたように、報ステ内には、古舘氏の残党と桐永CPとの抜き差しならぬ対立がある。

「上から目線の講釈を垂れる番組にしたくないというのが桐永さんの持論。今まで、反権力志向の『古舘報ステ』が正しいと信じてやってきた人たちには、存在を否定されたように感じられたかもしれないですね。実際、17日の事件で叱責されたのは古舘派のディレクターらで、彼らは何かにつけて桐永さんに逆らって、胸襟を開いているようには見えませんでした。そういった両陣営の対立があったなかで、アンチ桐永派は、選挙報道のお蔵入りと面罵をパワハラ行為とし、コンプラ当局に通報したと見られます」(同)

 そんな一件があった直後の7月20日ごろ、桐永CPはコンプラに呼び出しを受けた。セクハラにパワハラが合わさって、コンプラの“真剣度”が増した恰好に映るが、当のテレ朝は、

「選挙報道と今回の事案(セクハラ)は何ら関係ありません」

 と否定する。ともあれ、

「その呼び出しの際にコンプラ側は、“女性と2人で飲みに行っていないか”とか“職場や飲み会の席で性的な話をしていないか”といった内容を彼に質し、ある程度認めた彼を口頭で厳重注意しました。しかし、7月17日の一件以降、他にも被害を訴え出る者が相次ぐなどし、その後も社内調査は続いた。そして、8月30日に3日間の謹慎とCP解任が決まりました。BS朝日への出向になるようです」(前出のテレ朝関係者)

 処分が決定されるまでの背景には「古舘イズム派」VS.「変革派」の確執があったのも間違いないようだが、そもそもそれだけの原因が彼にはあった。なにしろ、森アナ以外にもセクハラの被害者は複数いて、さる女性局員によると、

「社員から学生アルバイトまで、10人以上に及んでいたようです。複数で飲むと見せかけて実は2人きりの飲み会だったという『手口』も何度かあったそうです。で、そのセクハラ語録については……“〇〇に抱きついたんだけど、嫌がられなかったから、俺はまだいける”“おじさんは恋をしたい。でも、結婚していて、なかなか恋ができない。数をいっぱい投げれば、いつか引っかかることがあるかもしれないと思ってやるんだ”とか“セックスしよう”“どんな体位でいつもしているのか”“自分は訴えるひとと訴えないひとの見分けがつくので、(セクハラ的な言動を)やっているんだ”とか」

 飲みに誘われた者の中には、現在ニュース23のメインキャスターを務める小川アナもいて、

「去年の8月5日、広島の慰霊式典の前日でした。彼女は式典の取材を希望し、そこに桐永さんがついてくることになった。アナウンサーが外に出る際には、プロデューサーが護衛を兼ねてついてくるのは珍しいことではないし、彼は広島出身でもありますから。その夜は被爆者の方たちを交えて会食したんですが、その1次会の後、小川さんに桐永さんから“これから飲みに行きませんか?”みたいな内容のLINEが入ったそうです。小川さんは嫌だったらしく、翌朝は本当に早かったので、その通り返事をして断り難を逃れたようです」(同)

 セクハラ問題に詳しい板倉由実弁護士は、

「キスは強制わいせつに当たりますから、3日間の謹慎処分では軽すぎます。これが外資系の企業だったら、懲戒解雇の対象になるはずです。仕事が出来ればセクハラをしても許される、セクハラなど大した問題ではないという空気が日本にはまだあるのでしょう。セクハラの加害者は40代半ばから多くなり、合意の上だった、被害者の女性から誘ってきたと言い訳する人が驚くほど多い。相手が自分に気があると勘違いしているのです。テレビ朝日は、福田淳一前財務事務次官の時にもセクハラを自社で放送せず問題になりましたが、その件を活かした内部的教育が不十分であるということでしょう。報道機関でこのようなセクハラが起こってしまうのですから暗澹としますよ」

 仮に桐永CPをよく知る“擁護派”の証言が正しく、「ついついその気になってしまった……」としても、同意もなくいきなり口づけまでしたのでは、やはりアウトというほかあるまい。

 専門家から指弾を受けた桐永CP「生みの親」たるテレ朝の早河会長を自宅に訪ねると、ゴルフのドライバーを手に素振り中。しかし、こちらの問いかけには一切応じることがなかったのである。

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