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 今回、「文藝春秋」は、「note」の法人向けサービス「note pro」を利用して、デジタル定期購読サービスをスタートした。なぜ、内部開発することを止めて、新興ベンチャー企業のプラットフォームに乗ることに決めたのか。

「このプロジェクトは、“コンテンツに有料課金すること”ありきで始まりました。しかし、現在、文藝春秋社には有料課金できるプラットフォームがない。一から有料課金モデルのサイトを構築していたら、億単位の開発費と年単位の時間がかかってしまう。雑誌単体のプロジェクトとしては到底不可能。さらに社の開発と完成をまっているのでは遅いと判断したのです」

「『とにかく、まずは一刻も早く始めてみることが大事だ』と思いました。確かに、社で有料課金モデルのサイトを立ち上げて、読者データを収集するというのが一般的な考え方でしょう。しかし、それの完成を待っていては、いつスタートできるか分からない。それに加えて、『文藝春秋』のコンテンツは、ウェブ上でどう読まれ、どうウケるかも分からない。だったら、とりあえずはイニシャルコストが低く、コンテンツをウェブ上ですぐにでも展開できる場所を“借りて”スタートするのがいいと思ったのです」(同前)

「深津さんからは重要な示唆を受けました。(1)自社開発はコストがかかること。(2)どんなコンテンツがウケるかも分からないのに莫大な投資を最初にすると後々ピボット(方向転換)がしにくくなること。大きく言えば、その2つです。極論を言えば『やめたい時にいつでもやめられる状況にしておくほうがいい』というわけです。やっぱりそうか、と思いました。この時点で、自社開発することは一旦なしにする方向になりました」(同前)

 一方の「note」側は、こうした「文藝春秋」の動きをどう見ていたのか。

 じつは、意外なことに「note」というプラットフォームは、「文藝春秋」という媒体を参考に作られたという。

 2014年4月7日、「note」というサービスを開始したまさに当日、ピースオブケイク社長の加藤貞顕(46)は自身の「note」に次のように書いている。

〈その昔、菊池寛というクリエイターが、クリエイターによるクリエイターのためのメディアがほしいということで「文藝春秋」という雑誌を立ち上げました。そして、たくさんのクリエイターが集い、作品を発表しました。〉

「この会社(ピースオブケイク)をつくったのは、インターネットという新しい才能が集う場所に、クリエイターが継続して活躍できる場所をつくる必要があると思ったからです。会社の設立時に『どうやったらそんなことができるだろうか?』と考えた時、まっさきに頭に浮かんだのは菊池寛のことでした。100年前に似たようなことをしたひとがいる、と。cakesやnoteをつくって運営していく際には、文藝春秋の歩みをすごく参考にしています。だから、今回のお話があったときは嬉しかった。『一番来てほしかった人が来てくれた』と」

 村井は「コンテンツメーカーとしての紙媒体と、コンテンツを流通させるプラットフォーマーの関係をしっかり考え直すことも必要かもしれない」と気がついたという。

「パソコンやスマホが普及し、あらゆるコンテンツがデジタル世界に出て行くようになり、いつの間にか僕たちコンテンツメーカー側は『自分たちでコンテンツを配信させるシステム・流通させるシステムを作らなければならないんだ』という責任感というか考え方に固執してしまっていたのではないか。noteチームと仕事をしていて、そんな気がしました。紙の雑誌や本を作る時、僕たち出版社の人間は、流通網や物流網を作ったりすることを考えてこなかったはず。なのに、デジタルではそちらに多くのエネルギーを費やしている。だから疲弊するコンテンツメーカーが増えているのではないでしょうか。僕たちがコンテンツに集中できるような環境を提供してくれるプラットフォーマーがいれば、多くのコンテンツメーカーは助かると思うんです」

 加藤もこう言う。

「出版社が本を売る時って、印刷会社がいて、製本会社がいて、取次さんがいて、書店さんがいる。コンテンツが人々に届くまでの仕事も、分業してやっているじゃないですか。ぼくはデジタルでもまったく同じことだと思っていて。コンテンツメーカーはコンテンツを作ることに集中してほしい。読者に届ける仕組みやシステムのことは、私たちのようなプラットフォーマーがお手伝いをすればいいのです。デジタルでも、そんな“いい関係”を作る時代がすでに来ている。僕はそう信じています」