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 要人が鉄道を利用することは、戦前期まで決して珍しいことではなかった。一方、列車は発車時刻が決まっているうえに、駅で乗降車するから襲撃犯は待ち伏せをしやすい。実際、原敬濱口雄幸といった現職首相が、東京駅で白昼堂々と暗殺されるという事件も起きている。それでも当時の政治家は、不特定多数の人と乗り合わせる鉄道を利用するしか手段がなかった。

 最後の元老として政界に隠然たる影響力を有した西園寺公望は、晩年を静岡県の興津で過ごした。西園寺は興津駅から東海道本線に乗ってたびたび上京している。

 3度も内閣を組織した近衛文麿は、全国各地に別邸を構えている。そのうちのひとつである軽井沢の別邸と東京との行き来は、上野駅から列車を使っている。

 西園寺も近衛も長距離移動だから鉄道を利用するのは理解できるが、米内光政にいたっては首相退任後に自動車を使わずに市電で移動していた。車内で一般市民から声をかけられることもあったという。

 戦後、自動車が普及すると要人の移動は自動車使用が主流になっていく。自動車移動は時間に縛られにくくスケジュールを組みやすいというメリットもあったが、それ以上にセキュリティの問題から自動車の導入が促された。

 7月25日のような自動車事故は、実は年に数回のペースで起きている。実際、安倍首相(当時)がニコニコ超会議を視察する際に接触事故が起きたこともある。こうした前例もあるので自動車が絶対に安全とは言い切れないが、それでも身辺警護の面から見て鉄道より安全性を確保しやすい。

 しかし、自動車は中長距離の移動に向かない。新幹線をはじめとする鉄道で移動する方が所要時間も短く済み、要人の身体的・精神的な負担は少ない。

 現職の首相といえども、新幹線一編成を丸ごと貸し切ることはできない。天皇皇后両陛下にはお召し列車と呼ばれる専用列車があるが、首相に専用列車はない。首相・元首相などの要人はグリーン車を利用するのが一般的だが、それでも一般乗客との混乗は避けられない。

 新幹線の乗車時、首相の座席前後2列は秘書やSPなどが座って警護にあたる。それでも同じ車両に一般乗客が乗り合わせる。約3メートルの距離に、要人が座っていることになる。

 鉄道警察隊は、1923年に一部の鉄道職員に警察権が付与されたことに端を発する。1950年には、国鉄用地内での痴漢・すり・置き引き・立入禁止箇所への無断忍び込み・機器の盗難に対応する職員のための鉄道公安職員法が制定された。同法により、映画やテレビドラマでもお馴染みの通称・鉄道公安官が主要駅に配置された。

 鉄道公安職員は国鉄に籍を置きながらも、小型の武器を所持することが認められていた。通常時は警棒だが、VIPの警護や現金輸送といった特別なケースでは拳銃を所持することも許されていた。そうした点にも国鉄に強い公共性が含まれていたことが窺える。

 分割民営化されてJRが発足すると、民間企業の職員に拳銃所持を認められるはずもなく、鉄道の治安を守る役目は各都道府県警の鉄道警察隊に引き継がれる。

 鉄道公安職員を源流とする鉄道警察隊は、あくまでも列車内や駅構内といった鉄道関連施設の治安維持が主目的。彼らの任務は駅構内での雑踏警備、列車内警乗と呼ばれる類のもので、要人警護を担当することはない。

 とはいえ、雑踏警備を疎かにすることはできない。雑踏警備は多くの人が集まる場所での人員整理や交通誘導・案内などをすることで未然に事件・事故を防止する役割を担っているからだ。

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