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市長 “決断は簡単ではなかったが 緊急の課題に必要なこと”

ロンドン市は、大気汚染の問題に対応するため、2019年から中心部を対象に「超低排出ゾーン」に設定してきましたが、29日から市内のほぼ全域に拡大しました。

一定の排ガス基準を満たさない車がゾーン内を走行する場合、1日あたり12.5ポンド、日本円にしておよそ2300円が通行料金として徴収されます。

大気汚染対策や環境の保護につながるとして評価する意見がある一方で、中心部と比べて公共交通機関が整備されていない地域に住み、日常的に車を使用する市民からは、強い反発の声も上がっていて、各地で抗議活動も相次いでいます。

イギリスでは、ユーロ圏やアメリカと比べてもインフレ率が高い水準となっていて市民は生活費の高騰に直面しています。

ロンドンのカーン市長は、今回の措置に踏み切ったことについて、「決断は簡単なものではなかったが、大気汚染を減らして市民の健康を守り、気候変動という緊急の課題に取り組むために必要なことだ」と市民に理解を求めています。

「超低排出ゾーン」とは

「超低排出ゾーン」は、ボリス・ジョンソンロンドン市長が決めた政策で、実際には2019年4月からカーン市長が導入しました。

「超低排出ゾーン」が適用されたのは、当初は市内中心部だけでしたが、8月29日からは、ヒースロー空港を含むロンドン市内のほぼ全域に拡大されます。

ゾーン内を走行する場合、一定の排ガス基準を満たさない車両は1日あたり12.5ポンド、日本円にしておよそ2300円が通行料金として徴収されます。

対象となるのは、主に2006年以前に登録されたガソリン車や2015年以前に登録されたディーゼル車で、ロンドン市内ではことし2月時点でおよそ70万台にのぼるということです。

深刻な大気汚染で導入

市内のほぼ全域にまで拡大することになった背景にあるのが深刻な大気汚染です。

ロンドン市によりますと、ロンドンでは2019年、大気汚染が原因とみられる呼吸器の疾患などでおよそ4000人が亡くなったということで、市民の健康被害が社会問題となっています。

市によりますと、ゾーンが導入された2019年からの4年間でゾーン内の窒素酸化物の排出量は26%減少し、PM2.5の排出量は19%減少したと推定されるということです。

国内の調査で「賛成」34% 「反対」51%

イギリスの大手調査会社「ユーガブ」は、7月、イギリス国内のおよそ5000人を対象に「超低排出ゾーン」の政策を支持するかどうかを尋ねた調査結果を公表しました。

それによりますと、
▼「強く支持する」または「やや支持する」と答えた人はあわせて34%だったのに対し、
▼「強く反対」または「やや反対」と答えた人はあわせて51%にのぼり、「反対」とした人が上回りました。

一方、ロンドン市だけに限ってみると、「支持」と「反対」が同じ割合となっています。

その理由として、すでに規制の対象となっている中心部に住む人たちは「賛成」していることなどがあるとみられます。

「反対」の声をあげているのは、今回新たに規制の対象となる地域の住民とされています。

ロンドン南部のトゥーティング駅前で26日開かれた大規模な抗議集会には、およそ80人の市民などが参加しました。

参加した人たちは「『超低排出ゾーン』をやめろ」とか、「汚れた空気なんてうそだ」などと書かれたプラカードを掲げながら、規制の拡大に反対していました。

抗議活動に参加した60代の女性

光熱費も食費も上がっている中で通行料金なんてとても払えません。離れて暮らす家族に会える頻度も減りそうです。

70代の女性

住んでいる場所が新たに対象となるため、規制が始まる日に車を手放すことにしました。郊外に住んでいる人たちは車がなければとても不便ですが通行料金はとても払える金額ではありません。

タクシー運転手は抗議のハンスト

「超低排出ゾーン」の拡大で特に大きな影響を受けるのが、タクシー運転手です。

ロンドン郊外のレディングに妻と2人の子どもと暮らすタクシー運転手のプラッブディープ・シンさんは、ヒースロー空港に向かうビジネス客を主な顧客にしていています。

「超低排出ゾーン」の拡大で空港やその周辺が新たに対象となるため、基準を満たす車に買い替えることを検討しましたが、市から支給されるおよそ40万円の補助金では足りず、新車の購入には踏み切れないということです。

シンさんは「いまの車には愛着があるし、あと2、3年は何の問題もなく乗ることができるのに、なぜ市長はこの車を廃車にさせようとするのかわかりません」と話していました。

その上で「イギリスはいま、生活費の高騰という危機に直面しています。『超低排出ゾーン』の拡大はより多くの貧困を生み、庶民の生活にさらなる問題を招くことになります」と訴えていました。

8月7日からは、抗議の意思を示そうと、ロンドン西部のアクスブリッジ駅前で水だけで生活をする7日間のハンガーストライキを行いました。

シンさんのもとには、「超低排出ゾーン」に反対する多くの支援者が駆けつけ、飲み水を寄付したり声援を送ったりしていました。

タクシー運転手 プラッブディープ・シンさん

私はいま、自分の声を届けるために1歩を踏み出したばかりです。私は最後の最後までこの政策の撤回を求めて闘い続けます。

選挙結果にも影響

「超低排出ゾーン」の拡大は、有権者の投票行動にも影響を及ぼしていると見られます。

7月に行われたイギリス議会下院の補欠選挙のうち、ロンドン西部の選挙区では、労働党の候補者が保守党の候補者に敗れました。

スナク首相率いる与党・保守党の支持率は全国的に低迷していて、これ以外の地方の2つの選挙区では、労働党の候補者が大勝しました。

ロンドン西部で労働党の候補者が敗れた背景には、労働党のロンドンのカーン市長が「超低排出ゾーン」の拡大を決めたことへの有権者の反発があったと指摘されています。

この選挙結果を受けて、次の総選挙での政権交代を見据える労働党のスターマー党首は、カーン市長にゾーン拡大を見直すよう促す事態となりました。

そして、カーン市長は基準を満たす車に買い替える市民に2000ポンド、日本円でおよそ37万円を補助する支援策を表明しました。

カーン市長は「『超低排出ゾーン』の拡大は車を利用する人への宣戦布告ではない。きれいな空気は、私たち全員のためだ」と強調していますが、労働党は同じような排ガス規制を地方都市にも導入するとしていた政策を党の公約から削除しました。

この一連の出来事は環境政策を推し進める難しさを印象づけるものとなりました。

専門家 “居住地で温度差 問題の重要性の情報提供を”

公共政策が専門のノッティンガムトレント大学のピーター・エカーズリー准教授は、都市の中心部に住む人とそうでない人との受け止めの違いが課題となると指摘します。

この中でエカーズリー准教授は、「政策が導入された当時、ロンドン中心部に住む多くの人が大気汚染を深刻な問題と考えていたため、『超低排出ゾーン』には大賛成だったと思う。一方で、ロンドンの中心部以外に住む人たちは車を所有している人が多く、人口密度も低いため、目に見えない脅威で、日常的に影響を及ぼすものではない大気汚染を多くの人がそれほど深刻に受け止めていないのだと思う」と指摘しました。

その上で、中心部以外に住む人々の理解を得ることについて、「長期的な利益を享受するためには、何らかの支払いや先行投資が必要で、政府や科学者などは、この問題が重要で、行動する必要があると確信できるよう、情報を提供していくことが重要だ」としています。

欧州では 排ガス規制エリア拡大の動き

ヨーロッパでは、都市部に排気ガスの規制エリアを設ける動きが各地で進んでいます。

環境問題に取り組む各国の団体が共同でまとめた報告書によりますと、EUヨーロッパ連合とイギリス、それにノルウェーを対象に調査を行った結果、排気ガスの規制エリアは2019年から2022年までの3年間でおよそ40%増え、320に上るということです。

この数は2025年には、500を超える見通しだとしています。

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