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ギリシャ陸軍のクリストス・ジャナキディス軍曹は2人目の子どもを考えていた。だがこの10年間、ギリシャ債務危機に見舞われ、ジャナキディスさんの生計も苦しくなり、家族を増やしたいという希望はしぼんでしまった。

息子1人だけでもお金がかかる、とジャナキディスさん。特に、近年子どもの数が急速に減っているギリシャ北東部の片隅では、息子を遠方まで連れ回すのには高い費用がかかるという。

大半の日は、午後になるとニコラスさん(13)を50キロ先まで車で送迎する。離ればなれの村に住む地域の子どもたちとサッカーをさせるためだ。小児科医の診察を受けようと思えば、さらに遠くまで行かなければならない。

サッカーの練習をピッチ際で見守るジャナキディスさんは、「昨今では、家族を持とうと思ったら覚悟が必要だ」と語る。「2人目を考えるなら、もっと稼がないといけない」

欧州では大半の国が出生率低下に悩まされており、専門家は経済の長期的な健全性が危うくなると指摘しているが、そのトレンドを反転させることの難しさは、ギリシャの例を見れば明白だ。

最新のデータによれば、2022年のギリシャの出生数は過去92年で最少となった。背景には債務危機があり、緊縮財政と移民流出が何年も続き、若い世代の意識も変わってしまった。

非公式の暫定データによれば、2023年の出生数はさらに減少する見込みだ。

ギリシャは欧州でも最も出生率の低い国の1つだ。ここ数年、新生児が1人も生まれていない村もある。

当局者はロイターに対し、ギリシャ政府は5月に出生率向上に向けた新たな対策を発表する予定だと語った。

計画には、家族向けの現金給付、若年層向けの低価格住宅の供給、介助出産のための経済支援、移民の労働市場参加の促進などが含まれる。家庭問題担当閣僚を含め、この取り組みを起案した当局者が明らかにした。

計画全体の規模と費用はまだ不明だ。

ただしここ数十年、他のEU諸国における類似の政策は思うような成果を上げていない。人口統計学者は、ギリシャでも大きな違いは望めないと予想している。計画を推進する側でさえ、自信なさげである。

ギリシャの社会統合・家族問題担当相を務めるソフィア・ザカラキ氏はロイターに対し、「1つの省庁、1人の大臣の力でこのトレンドをひっくり返せるなどといえばうそになる」と語る。「それでも、試み続ける必要がある」

<街路から消えた子どもの姿>

ジャナキディスさんが暮らすオルメニオ村、そして同村を含むギリシャで最も貧しい地域の1つであるオレスティアダ自治体では、出生率低下の問題の深刻さが露呈している。

国勢調査のデータによると、トルコとブルガリアに国境を接する農業地域であるオレスティアダの人口は、2011年から2021年にかけて16%減少した。オルメニオ村で暮らすストラトス・バシリアディスさんは、かつては多くの子どもたちでにぎやかだった同村だが、現在は住民300人のうち3分の2が70歳を超えていると語る。

オルメニオ村の13才は、ニコラスさん1人だけ。週末のほとんどをビデオゲーム相手に過ごす。18才になったら村を出たいと言う。

「ドイツに自分の妹がいるので、そちらに留学させるべきかもしれない」と父親のジャナキディスさんは話す。

静寂に包まれたオルメニオ村。時折その沈黙を破るのは、閉鎖された店舗やがらんとした遊び場に響く教会の鐘、バックギャモンをプレーしにカフェに向かう老人が運転する電動カートくらいだ。

日曜日のミサでも、教会の信徒席のほとんどは空席のまま。オルメニオ村を通る列車は、以前は村を訪れる人たちを連れてきたが、現在はウクライナに送られる戦車を積んでいる。

このあたりでは国境沿いに新たなフェンスが張り巡らされ、不法移民の入国を阻んでいる。保守政権による移民対策強化の一環だ。

「以前は結婚式や洗礼式に人が集まったが、今では顔を合わせるのは葬式くらい」とクリソウラ・イオアニドウさん(61)。「子どもが生まれることはほとんどない」

ストラトス・バシリアディスさんの兄弟で言語療法士のトドリスさんは、周辺の村々に住む20人ほどの子どもたちのために美術ワークショップを開いている。トドリスさんは、孤立していると社会的スキルの発達が妨げられると話す。おしゃべりをする友人がいないせいで吃音の症状が悪化した子もいたという。1人で人影のない村道を自転車で走りまわる子どももいる。
オルメニオ村に似た状況は、程度の差こそあれ、ギリシャやEUの各地で見られる。フランス、イタリア、ノルウェー、スペインなどの政府は何十億ユーロもの少子化対策予算を投じているが、ほとんど効果が上がらない例が多い。

ギリシャ経済は近年回復しつつあるが、キリアコス・ミツォタキス首相は、出生率の低下が「国家的な脅威」であり、年金制度にとっては「作動中の時限爆弾」だと語る。

少子化対策は最優先課題>

5月に発表予定の支援措置以前にも、ギリシャ政府は出生手当と育児用品減税を導入し、民間セクター対象の出産給付金を拡大した。

だが、改善の兆候はほとんど見られない。

コスティス・ハジダキス財務相はロイターに対し、出生率低下は「ギリシャに限らずEU全体が直面している最も深刻な問題の1つだ」と語った。「いかなる手段が必要になろうと、これが最優先課題だ」

政府が直面する課題の1つは、債務危機によるトラウマの克服だ。ほんの数年前、政府の緊縮政策に対する抗議運動が広がっていたとき、若年層の失業率は60%を超えていた。今も25%前後が続いている。

何十万人もの若者がギリシャを離れた。母国に残った若者もインフレと家賃高騰のために不動産市場から締め出されており、30代になっても両親と共に暮らしている人も多い。

オレスティアダ自治体の苦悩は深い。何百人分もの雇用を生み出していた製糖工場は廃業し、フェンスで囲まれた敷地には雑草が伸びている。他にも多数の事業所が閉鎖されている。

オルメニオ村に最も近い小学校の学区には17の村が含まれるが、生徒数は減少の一途だ。1年生は全部で4人。朝、出迎える担任教師がまとめて抱きかかえられる数だ。ディミトリス・ロシディス校長は、来年の1年生はゼロになると話す。

ロシディス校長は「未来が明るいようには思えない」と語る。

1年生を教えるネクタリア・ムロプルさんの話では、家庭を築きたい気持ちはあるが、月給は1000ユーロ(約16万4200円)で、その3分の1が小さなアパートの家賃で消えてしまうという。ガソリンを少しでも安く買うためにトルコに越境し、光熱費の支払いは母親に援助してもらっている。

「30代になって月1000ユーロしか稼げないなら、家庭を築けるかどうか考えてしまうのも当然だ」とムロプルさん。政府の対策は的外れだという。

「第1子の出産手当として20ユーロ、いや50ユーロ、100ユーロ出すとしても問題解決にはならない」

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