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『無門関提唱』
P141

たいてい飯炊きをした。それで飯炊きのことなら何でも知つている。その飯炊きがなかなか容易にできるものじやない。そんな大飯でなく、一升二升の普通の家の飯でさえうまく炊けるものでない。
 ましていわんやその他のこと、自々物々、世の中のことというのはむずかしい。本を読んでああこんなものか、これはこうか、これはそうしたものじやないと考える。ちようど婦人の人が針をとつて運針から初めて、何でもないように見えるけれども、一枚の着物が縫えるようになるまでには容易なものじやない。それをちよつと学校へ行つて、本だけ習うて試験を通つたら何でもできるように思うて、偉いような顔をして暮らしているが、碌なことができるはずはない。高文を通つた、司法官の試験を通つたとかいうが、本だけ読んで物を知つただけじや、泥棒を裁いたつて、泥棒のことがようわからん。ほんとうの実地を知らんから、この型にはまればこうじやと型だけ使つておる。それじやから碌なことはできない。