『精神のない専門人、心情のない享楽人。この無のものは、人間性のかつて達したことのない段階にまですでに登り詰めた、と自惚れるだろう』
こういう社会の中で、人間はどのくらいまともでいられるか。まともに働いて、家族を作って、自分の将来を考える――。正直言って、これはかなりしんどいことだと思います。そういう世界で生きざるを得ない人、特に若い人は、目先のノウハウなどに一喜一憂しないで、むしろ自分の中にある力を内省的に振り返ってほしい。
やっぱり悩まないと、自分というものが分からないし、自分にとって大切なものも分からない。今のような悩むことを是としない風潮が、今の閉塞感を生み出しているんじゃないでしょうか。悩みをくぐり抜けないと、生きる力や思考力、創造的なアイデアは出てこない。
今、時代は中途半端を許さなくなっています。中途半端なところで悩むことをやめると、自我を打ち立てることも、他者を受け入れることもできません。中途半端ではなく、徹底して突き進むことが重要です。
これは、自由のパラドックスです。
お互いが承認し合って、他者との関係が自分の力になっていくようなコミュニケーションを多くの人は欲している。その意味では、悩む力は他者とともにある。