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BizPlus:コラム:斎藤 精一郎氏「斎藤教授のホンネの景気論」第79回「オバマノミクスの政策総動員とデフレの罠――オバマ政権は米経済を危機から救えるか」

 では、筆者は何故にオバマ財政効果をあまり大きくないと読むのか。先述のように7500億ドルの財政大出動があれば、マクロ計算上は米GDPを7〜8%も押し上げる計算になる。日本の2000年の事例をみよう。この時オブチノミクス(小渕政権)による財政大出動が繰り出され、その結果経済拡大効果が発現された。だが、それは短期的に景気を浮揚させたカンフル効果にとどまった。基本的にオバマノミクスの財政出動もこれと同様な、一時的なカンフル効果に終わるリスクが高い。何故か。最大の要因は3つだ。2つは米国経済に固有な構造的な桎梏(しっこく)が存在していることであり、1つはオバマノミクスの「背面」、すなわち「負の側面」が徐々に米国経済を蝕むリスクだ。

2つの成長エンジン力の不在こそ、今次金融危機が米国の胸元に突き付けた「短剣」なのだ。この「短剣」をいかにかわすか、これがオバマノミクスに投じられている、逃げられない質問状だ。

大々的な財政出動にも金融再興プランにも莫大なコストがかかる。巨額な国債発行ならびにFRBの資産拡大だ。

熱狂や陶酔が冷めれば、冷徹な現実が待っている。

結局FDRが32年に米国民に約束した経済再生は、ニューディールではなく、第2次世界大戦によって実現したのだった。

今次危機の「Fog&Fear」が氷解しにくい最大の要因は、これが歴史的な特異性に起因し、過去の経験からも歴史的な知見や理性的な論理からも、なかなか解決法が見出せない点だ。

日本の小泉内閣が断行した金融危機脱却は「三種の神器」のうち一本が欠落していた。不良債権処理のための公的資金枠の設定、超金融緩和策の断行は日米共通だが、財政出動が小泉治世下の日本では完全に欠落していた。

日本の場合、宮沢内閣から森内閣に至る長期間に総額137兆円(事業費ベース)の財政出動を繰り広げてきたが、これが結局一時的カンフルで終わってしまったのは、財政支出ががんじがらめの既得権益の仕組のもとに配分され続け、「財政の低質化」が究極にまで進行してしまったことにある。

家計の信用残高比率が高い米経済にあって経済停滞が長引けば、戦後初めてのデフレ症状は相当な厳しさを持つ。このときバーナンキ議長は持論のインフレ目標論を掲げて「米国デフレ」脱却の「出口」をつかめるのかどうか。「いつか来た日本の道」が、結局はバーナンキ議長、クルーグマン氏、さらに多くのエコノミストたちが強調して止まなかったIT論で解決可能かどうか、その真贋(しんがん)が検証されることになる。