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【正論】オバマ政権始動 慶応大学教授・阿川尚之 「苦難の冬」に挑む価値の源

 オバマ氏はしばしば予想外の行動を取る。進歩派の政治家でありながら、就任式の祈祷(きとう)を、妊娠中絶や同性婚に反対する福音派の牧師リック・ウォーレン氏に依頼した。就任式の1週間前には、ジョージ・ウィル、ビル・クリストル両氏など、保守派論客とウィル氏邸で夕食を共にした。

 就任早々、共和党の有力議員に直接会い、景気刺激法案への支持を求めた。共和党が得意とする減税策も採用した。グアンタナモ捕虜収容所閉鎖を発表する傍ら、パキスタン領内のイスラム過激派拠点にミサイルを撃ち込んだ。

新大統領の多面性

その意味では天才だが、個人として強い信念を有しているわけではない。そう考える人がいる。

 だが現実的であるだけではあれだけの熱狂を巻き起こせない。オバマ氏は人々の心に訴えかける能力を確かに持っている。ただ訴える内容は単純でない。この政治家の考え方は存外複雑で測りがたい。

保守的ともいえる古い価値

リンカーンから始まった黒人解放の歴史を超え、アメリカの普遍的価値を建国にまで遡(さかのぼ)り、奴隷の所有者であったワシントン将軍をもあえて肯定する。

 偉大な政治家であるには、現実と理想のあいだで絶妙なバランスを取らねばなるまい。

吉崎 達彦 氏 ケネディとオバマ、2つの大統領就任演説( 09/2/9)

 1776年のクリスマスの夜、独立軍の兵力はわずか2400にまで減っていた。しかしジョージ・ワシントン将軍は、大胆にも冬場で凍結していたデラウエア川を渡り、イギリス軍に奇襲攻撃をかけた。このトレントンの戦いに勝利したことで、独立戦争の状況は好転する。まさに桶狭間の戦いに赴く織田信長が、「人生50年」と舞ったような瞬間であった。

 あらためて先のくだりを読み返してみていただきたい。ここには「ジョージ・ワシントン」という名前も、「1776年12月25日」という日付も、「デラウエア川」という地名も、「イギリス軍」という敵国名も出てこない。「トレントンの戦い」は、アメリカでは中高生レベルの歴史知識であるとはいえ、ピンと来なかった聞き手も多いはずである。

 演説の最後の「聞かせどころ」から、すべての固有名詞を消し去って