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【昭和正論座】東京都立大名誉教授・関嘉彦 昭和50年2月8日掲載

ところがその質問にミルはいささかも動ずることもなく、即座に「然り」と答えた。それを聞いた聴衆の労働者は、憤慨するどころか、猛烈な拍手で歓迎した。聴衆の一人のオジャー(後に第一インターナショナルの設立に際しマルクスらと協力した労働者である)は、聴衆を代表して立ち上がり、「自分たちの欲するのは真の友人であり、阿諛(あゆ)者ではないから、自分らの欠点を直言してくれる人には恩義を感ずる」と述べたそうである。

 この演説の後で、ハイドパークで労働者のデモ隊と警官隊が衝突して血の雨が降りそうな事件がおこった。誰も労働者を制止することができなかった時、ミルが単身労働者の前に立ちふさがり、説得してデモ隊を引きあげさせた。それほどまでにミルは労働者の信頼をかち得たのであるが、それは、ミルが常に率直な議論を労働者にしていたからである。