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伊藤忠商事 丹羽宇一郎:本物のリーダーへの道

アリのように働き、経験を積めば、仕事に関するさまざまな知識を覚えることができる。ただその多くは言葉で表現できない「暗黙知」で、そのままでは概念化できない。そこで勉強を通した「形式知」を得ることで経験と理論が結びつき、トンボのような複眼的な思考を身につけることができるのだ。

経営の神髄は人的資産をいかに運用管理するかにある。とすれば、人間とはいかなる存在か、その本質を知ることにこそマネジメントの原点はある。

自ら苦しい経験を重ねる中で見えてくるものがある。困難な課題に直面したとき、打開するのは「自分は間違っていない」という能力の過信でもなければ、「自分は間違っていた」という全否定でもない。信念は持ちつつも、困難な状況に応じて自らの思考を開いていく謙虚さだ。

やがて、これまでにない知恵と力が生まれ、状況が変わり、不可能が可能になる。このとき、人は理屈では説明できない何か不思議なものを感じる。それは「サムシング・グレート(偉大なる何ものか)」と呼ぶべきものだ。

本を読むとは時空間を超えて、自分では経験できない経験をすることだ。すると、自身が経験した漠とした不思議さが先人たちの経験と結びつき、普遍化される。

私の場合、2500年前の『論語』と出会い、経営の根幹にすべき倫理を学んだ。

自律自省の精神を実践していくと長期的には必ず成果に結びつく。それは人間の能力を超えたサムシング・グレートの存在を知ることで初めて到達できる世界にほかならない。

ただ、同じ本に接しても自立と成長を志向する意識がない限り、情報は流れていくだけだ。そこでアリからトンボになれるかが分かれる。むろん誰もができるわけではなく、おそらく上位20%ほどの層がトンボへ、人間へと成長し、リーダーとして組織を率いていくのだろう。

今、あなたはどこに位置しているか。誰もが持つ「動物の血」は隣同士の矮小な競争へと駆り立てようとする。しかし、本当に大切なのは、いつか訪れる死の瞬間に、自分は人の役に立つ仕事ができたと思い返せる偽りのない生き方だ。