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【幕末から学ぶ現在(いま)】(35)東大教授・山内昌之 横井小楠

 民主党には清新な印象を与える若い政治家が多い。しかし、政権交代による政官民癒着の構造の廃棄を語れば、自動的に新日本の姿が見えてくるわけではない。選挙対策用のマニフェストは、そのまま国のかたちや姿を説くビジョンにならないからだ。党と政府の関係で現在の混迷を招いたのは、新政権に幕末の横井小楠のような人物を欠くからではないだろうか。

 坂本龍馬の「船中八策」や由利公正らの「五箇条の御誓文」の基礎となった横井小楠の『国是七条』や『国是十二条』のスケールは、国の大きな役割を考える上で現代政治にも参考になる。

 福井藩に提言した国是十二条は、有徳こそ国富の土台になるという主張につながる。勝海舟が「天下で恐ろしい2人」として西郷隆盛と並んで小楠を挙げたのは偶然ではないのだ。

 また、小楠は、日本の政治家や地方指導者に「驕惰侮慢(きょうだぶまん)」になることを戒めた。日本の指導層が安逸と惰眠に満足し、外国の力を侮って慢心する独りよがりをたしなめたのだ。実学と国家経綸(けいりん)との結合が、小楠の思想の特色である。

 小楠の転機は、元治元(1864)年から翌年の慶応元年におよぶ坂本龍馬との3度の出会いで訪れた。勝海舟の紹介で龍馬が小楠に会ったのは、海軍の創設を相談するためであり、龍馬は自分の言葉として有名になる「日本の洗濯」を小楠に説かれたのである。

維新政府は「共和一致」(共に協力すること)や「議事の制」を曖昧(あいまい)にしており、立法・司法を区別しない、と薩長藩閥政治家にはうるさいことを言い出した。万機公論に徹せずば「富強の法」(富国強兵)も「利害の私事」に陥ると危険を警告したのである。

 資本主義になっても、「安佚(あんいつ)」に走らず「経国安民」のための「良心」をもって事に当たる重要性を説いた小楠のセンスは鋭い。

小楠を思うにつけて、大臣はじめ政務三役のリーダーたちが自ら電卓をはたく現政権の姿が浮かんでくる。

役所の課長補佐や係長のレベルの作業を政治家が果たす姿に、政治主導や国民本位の改革の姿形を見て喝采(かっさい)を送る国民は少ないだろう。