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【日曜経済講座】編集委員・田村秀男 人民元摩擦の深層

中国は昨年以降、米国債を着実に買い増している。


 特に最近、米財政赤字の財源となる長期国債を中心に買い上げている。市場で流通する米国債の約5割は外国の民間企業と政府機関が保有しているが、外国のうち中国のシェアは実に25%近い。中国が米国債の大量売却に踏み切れば米国債相場は急落し、ドルや株式を含む金融市場全体が大きく動揺するといわれるゆえんである。

 中国は、住宅金融関係など米政府機関が発行する債券の一大スポンサーでもある。2008年6〜9月、中国が住宅ローン担保証券MBS)など米政府機関債の大量売却に踏み切ったことが、同年9月の「リーマン・ショック」の誘因の一つになった。

中国当局リーマン・ショック以来人民元売りとドル買いにより、強くなるはずの人民元相場を強制的にドルにくぎ付けにしている。その結果、米国は巨額の対中貿易赤字を減らせず、対中輸出も増やせないという不満が米議会に渦巻いている。

リーマン・ショック」後、米政府は大量の赤字国債を発行すると同時に、連邦準備制度理事会FRB)は1兆ドル以上もドル資金を追加発行して紙くずになりかけたMBSをこの3月末までの期限付きで買い上げてきた。今月以降、再び住宅金融市場が不安定になりかねない。

 MBS米国債相場と連動しやすいため、米国債の急落は脆弱(ぜいじゃく)なMBSの価値を失わせる。すると、住宅ローンの焦げ付きが再び急増する。長期金利の高騰も避けられず、米景気は一挙に二番底へと暗転する懸念が生じる。

 中国の方はどうか。もとより、ドルに対する人民元の切り上げは1兆数千億ドルに上るドル建て資産の目減りをもたらし、巨額の国富を喪失する。輸出依存の国内産業への打撃になるとあって、党中央内では「米国の圧力に屈するな」という声が広がっている。胡錦濤総書記・国家主席は党内の支持基盤が弱く、最高意思決定機関である党中央常任委員会で多数派工作に難渋する。

 ドルで換算した中国の資産価値は、人民元が切り上がる分だけ増える。それを見越して「熱銭」と呼ばれる投機マネーが、香港経由など海外から大量に入ってくる。投機家の大半は海外に資産を蓄えた中国系資本だが、党幹部に直結しているために当局による制御が難しい。胡錦濤指導部は米国との摩擦を早く一段落させないと、バブル膨張を抑えられなくなる。