28年間で言われた言葉の記憶として
一番残っているのが「君、どない思う?」なんです。
「わしなぁ、いろんな一流の人物とお会いする。
一流といわれる人に会うたらな、共通点があるんや。
それは何か。
素直な心を大事にするという、その一点なんや。
幸いわしも素直な心を大事にしようと思い、
皆にも言い続けてきた。ところが……」
「わし自身が最近、素直になれんのや。
平常心を持てと言いながら心が落ち着かん。
人の長所を見よと言いながら、
社員の短所ばかり見てしまう。
君、助けてほしいんや。
すまんがな、
素直な心になるための百カ条、
つくってんか」
「君らの文章は理屈っぽい」と、
なかなか気に入ってくださらない(笑)。
「所長(幸之助氏)、私たちは
とらわれているんじゃないでしょうか。
所長は百カ条をつくれと言われ、
我われが無理に解説をつけようとしている。
いままでは所長の発言からまとめてきたのに、
借り物の言葉から先に
まとめようとしていることが間違いなんじゃないですか」
幸之助さんは少し考えておられましたが
「君、そう思うか。
よし、もう一遍、一からやろう」
と言われてつくったのが、
『素直な心になるために』という本なんです。
私はこの本が
「自分が素直になれんのや」という
幸之助さんの葛藤がきっかけで
生まれたことが大事だと思うんです。
自分が素直でないと感じる人こそ
素直な人ではないかと。
己の不足を認め、
それを埋めていこうという気持ちを
終生持ち続けられたことが素晴らしい
とつくづく感じます。