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コラム:「円高の夏」到来か、米株急落に要注意=斉藤洋二氏 | Reuters

「期待」は人間行動の大前提として位置づけられる。近代経済学では、市場経済を構成する経済主体が資源と情報を有効に使って「期待」を形成し、最も望ましい結果をもたらす行動を選択するものとされてきた。


これまで市場参加者はアベノミクスがもたらす将来の均衡市場価格の客観的確率分布を想定し、「期待」に基づく最適化行動、つまり株買い・円売りを行ってきた。しかし、「期待」は時間とともに色あせる。また、「期待」はその「効用」(=満足感)が時々に実現されることで再認識され、新たな「期待」が醸成されるものである。


換言すれば、「効用」があってこそ期待メカニズムは機能するが、「効用」を享受することが無ければ「期待」はいつしか「失望」に転じる。


アベノミクスは経済主体である国民、市場参加者の「期待」に働きかけることによりデフレスパイラルからの脱却を目指したが、「第一の矢」の金融政策はしょせん時間稼ぎであり、「第二の矢」の財政政策には数量的な限界があると認識されてきた。つまり、「期待」の本質は「第三の矢」にあり、成長戦略が描けるか否かにかかってきた。


国内では依然として成長戦略が熱く語られるが、海外ではそもそも日本には「第三の矢」は存在しなかったという冷めた見方が支配的である。それが年初来の外国人投資家の売り越し、そして株安・円高の背景になっていると説明できよう。

18世紀の思想家バーナード・マンデヴィルの発想に由来すると言われる「トリクルダウン理論」は、富める者が富めば、貧しい者にも自然に富がトリクルダウン(浸透)すると説く。しかし、現代の先進国や経済規模が一定水準を超える国々では経済構造が複雑化しており、この理論のように富は必ず上から下へ流れると単純には言い切れない。


実際、アベノミクス導入により新たな富が蓄積されたものの、企業において新規設備投資のような富の水平的な広がりは乏しく、中間層さらには貧困層へと富の垂直的な浸透の事例も少ない。有効求人倍率が改善し、業種によっては人手不足が伝えられるなどアベノミクス効果への期待は根強いものの、実体経済へ十分に波及するのは難しい。


とりわけ、実体経済の体温であり、またアベノミクスの成果として強調されてきた株価は、13年こそ15兆円を超える外国人投資家の買い越しにより押し上げられたが、14年に入り3月の1兆円超など大幅に売り越しとなっている。


この状況打開に向け、政府は少額投資非課税制度(NISA)に続き年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)のポートフォリオ組み換えにより株価上昇を企図していると言われる。しかし、法人税減税の議論が進むとともに消費税再引き上げが不可避となれば、当面は株価上昇の下押し材料となり株高・円安のアベノミクス相場第二幕は遠のく。

現在の日本株日経平均)は、株価収益率(PER)は約14倍、 株価純資産倍率(PBR)は約1.2倍と低水準であることから、世界で最も割安な投資先と推奨する向きがある。しかし、これはあくまでも市場の均衡は維持され、そして現在の相場は踊り場にあり株高・円安トレンドへの復原力を十分に備えていることを前提としている。さらに、この前提は米国株の堅調なトレンドが続くとの絶対条件の上に成り立っている点に注意が必要だ。