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コラム:アベノミクスに残された「最後の矢」=佐々木融氏 | ロイター

ドル円相場は、5月米雇用統計が予想を大幅に下回ったことを受けて、108円台後半から106円台半ばまで急速に円高・ドル安が進んだ。しかし、仮に米雇用統計があれほど弱い結果となっていなくても、遅かれ早かれ、反落基調に入っていたと考えられる。


なぜなら、5月中のドル高・円安方向への調整は、すでに6月1日の時点で終了し、ドル円相場は反落基調に戻り始めていたからである。きっかけは、1日の安倍首相の記者会見だ。


現在、海外投資家が日本に関して最も注目しているのは、第2次補正予算の規模である。日本のメディア報道によれば、その規模は5―10兆円で、9月末にも召集される臨時国会で審議される可能性があるという。


しかし、海外投資家は、第1の矢である金融政策が限界を迎える中、第2の矢である財政政策を矢継ぎ早に放たなければ2%のインフレ率、2%の実質成長率の達成は難しい、とのロジックから、1日の記者会見で、安倍首相が消費増税の先送りとともに、10兆円以上の補正予算を発表することを期待していた。そうした期待が脆くも崩され、円買い戻しの動きにつながっていたのだ。


アベノミクスは開始後3年間、第1の矢に頼り続け、それをほぼ使い果たした。マイナス金利という最後の第1の矢は、日本経済にマイナスの副作用を与えてしまっている。


そこで、政府は今、第2の矢、つまり財政政策に焦点を移し、これに頼ろうとしており、マーケットもそちらに期待をし始めた。ただ、第1の矢と根本的に異なるのは、日本には第2の矢がほとんど残っていないという事実だ。政府債務残高は国内総生産(GDP)の200%と先進国の中では圧倒的に多く、財政支出を膨らませる余裕はない。マーケットはそのことを早くも思い知らされている状態と言える。


<痛み止めと強壮剤で経済の実力は上がらない>


アベノミクスは、本格的に第3の矢(構造改革規制緩和)に頼るしかなくなっている。そもそも、こうした事態に陥るのは必然だった。本コラムで何度も指摘している通り、マーケットは実体経済を映す鏡でしかない。実体経済が変わっていないのに、鏡が違う姿を映し続けることはできないからである。


日本経済の潜在成長率は0.3%程度にすぎない。「痛み止め」の第1の矢(金融緩和)や「強壮剤」の第2の矢(財政支出)を使って一時的に本来以上の力を発揮したとしても、それは一時的なものに終わる。円相場に振らされる株価は、その企業の本当の収益力を反映しているわけではないだろう。


マーケットは、日本が痛み止めや強壮剤を使っている姿にだまされたのではなく、その間に第3の矢(構造改革規制緩和)で大胆な手術を行ってくれるだろうと期待して、それを織り込んできた。しかし、痛み止めが効かないどころか副作用まで広がり、また強壮剤も在庫が無いことに気づき、失望し始めている。


そうした中、一部の市場参加者は、残った痛み止めと強壮剤を混ぜ合わせて、ヘリコプターマネーという「劇薬」を作ることを推奨し始めている。政府と日銀が劇薬を作り始めれば、マーケットは再び反応するだろう。最初は過去3年間と似たような反応になり、ポジティブな効果が出たように映るかもしれない。


しかし、その時の反応は、大胆な手術が行われ、実力が高まることへの期待ではなく、劇薬に頼り続けなければ生きていけなくなることへの期待、つまり何度も劇薬が投与されることへの期待となるだろう。


日本はこのあたりで一度冷静に今後の方針を考える必要があるのではないだろうか。大量の痛み止めや強壮剤を使ってみたら実力も上がるかもしれないと考え、チャレンジしたことを今から批判しても仕方がない。実験してみなければ、いつまでも効果があるとの意見がくすぶっていただろう。


ただし、痛み止めや強壮剤だけでは実力は上がらなかったことが分かった今、劇薬でまやかしの姿を作るのではなく、そもそもどのようにして日本経済の本当の実力を上げていくかを考えるべきではないだろうか。


確かに、痛み止めの効果が薄れ始め、強壮剤の在庫が無い中で、大胆な手術を行うのは難しいかもしれない。しかし、少しずつでも痛みを感じながら手術を行っていかなければ、日本経済の本当の実力は回復しないはずだ。今後は第3の矢だけに頼って実力を回復することを考えた方が、マーケットは評価するのではないだろうか。

#アベノミクス