イラクでは、イスラム教スンニ派の過激派組織が第2の都市モスルなど幅広い地域を制圧して緊迫した状況が続いています。
こうした過激派の勢力拡大を招いたのは、シーア派のマリキ首相がスンニ派を冷遇したためだとして、退陣を求める声が国内外から強まっていました。
マリキ首相は14日、テレビを通じて演説し、「首相職の続投を取り下げる」と述べて退陣を表明するとともに、すでに代わりの首相候補に指名されているアバディ氏に協力する考えを示しました。
これを受けアバディ氏は、最大勢力のシーア派だけでなく、マリキ政権に反発してきたスンニ派やクルド人勢力とも協議を進めるなど、挙国一致の政権作りに向けた取り組みを本格化させています。
イラクではアメリカ軍が過激派に対する限定的な空爆に乗り出し、アメリカ軍の支援を受けた政府軍やクルド人部隊が過激派への攻撃を続けていますが、過激派は新たに支配地域を拡大するなど勢いが弱まっていません。
このため、アバディ氏が挙国一致の政権を早期に発足させることで宗派間の対立を解消し、過激派の掃討に一致して対処していけるかが差し迫った課題となっています。
イラクのマリキ首相が退陣を表明し、新しい首相候補に指名されたアバディ氏を支持する姿勢を示したことについて、国連のパン・ギムン事務総長は、14日、報道官を通じて声明を発表し、「憲法の手続きに基づいた新しい政権の発足に道を開くものだ」と評価しました。
そのうえで、パン事務総長は、「イラクのすべての政治勢力は、国が直面する多くの緊急の課題に取り組むために歩み寄り、ともに力を尽くすべきだ」と述べ、挙国一致の政権の発足を急ぎ、イスラム過激派組織による脅威に対応するよう呼びかけました。
2期8年にわたり、政権を担ったイスラム教シーア派のマリキ首相。
宗派や民族の垣根を越えた「挙国一致」を掲げましたが、2011年に、アメリカ軍がイラクから撤退して以降、シーア派優遇ともいえる政権運営を強め、少数派のスンニ派勢力やクルド人勢力との対立を深めていきます。
このうち、スンニ派勢力に対しては、イスラム過激派組織を掃討するため、アメリカ軍が活用した自警団を事実上、解体させたほか有力な政治家を辞任に追い込むなど、スンニ派を冷遇する措置を取ってきました。
また、クルド人勢力とは、北部のクルド人自治区での油田開発などを巡って、関係が悪化します。
このため、ことし4月の国民議会選挙で、マリキ首相率いる政党連合が第1勢力になったものの、新政権の発足に向けた各勢力の協力が得られず、政治的な対立が深まります。
さらに首都バクダッドでも、爆弾テロが相次ぐなど治安の悪化にも拍車がかかります。
こうした混乱に乗じて内戦が続く隣国シリアから流入したイスラム過激派組織が、スンニ派住民が多く住む地域で勢力を広げ、ことし6月には、イラク第2の都市モスルを制圧。
さらに今月上旬からは、イスラム過激派組織がクルド人自治区にも攻勢を強め、過激派組織の勢力拡大を招いたとして、マリキ首相への批判が高まり、国内外から退陣を求める声が強まっていました。
イラクではイスラム教スンニ派の過激派組織が西部から北部にかけての地域を制圧して攻勢を強めていますが、シーア派中心のマリキ政権が少数派のスンニ派を冷遇してきたことへの反発から、スンニ派勢力の一部が過激派と共闘するかたちで政府軍との戦闘に加わっています。
スンニ派の勢力で構成する評議会は15日声明を発表し、マリキ氏に代わる首相候補としてアバディ氏が指名されたことについて、「新しい政府の発足を歓迎する」として、融和の姿勢を示しました。
そのうえで「われわれの要求に耳を傾けるなら、国を守り、統一を維持する用意がある」として、自分たちの要求が受け入れられるならば、新しい政権に協力するという姿勢を示しました。
声明の中で、具体的な要求の内容は示されていませんが、スンニ派の勢力はこれまで住宅地などを標的にした政府軍の空爆をやめることやテロの容疑で大量に拘束されたスンニ派の住民の釈放などを要求してきました。
今後、新しい政権とスンニ派勢力の間で何らかの協力関係が築かれれば、過激派を孤立させることが可能となるだけに、事態の鎮静化の鍵を握る動きとして注目されます。