スタジオジブリの鈴木敏夫さんに「弟子入り」していた川上量生さんが、ジブリでさまざまなクリエーターたちと接して考えた「コンテンツとは何か」ということ。
この本を依頼されたとき、川上さんは「本にするのなら、いろいろちゃんと調べて書かなければいけないから、ちょっと難しいだろうな」と思ったそうです。
そこで、「資料的な正確さを期するよりも、現場で接したクリエーターたちのナマの声を紹介するような形で書いていく」ことにしたのが、この新書です。
この本のなかに「情報量」という言葉が出てきます。
あまり耳慣れないのですが、ジブリの制作の現場では、「このシーンは情報量が少ないので、やり直したほうがいい」など、ふつうに使われている言葉だそうです。
実写は情報量が多くて、子供には処理しきれず、アニメの場合は、画面内の情報が実写よりは少ないから、観やすくなる。ただし、最近の傾向としては、アニメのなかでも、ジブリ作品のように背景をしっかり描き込んだ「情報量が比較的多いもの」が増えてきているのです。
それは「子供のアニメ離れ」にもつながっているのだとか。
画面内の情報量をどう制御していくか、というのが、アニメをつくる人たちの腕の見せ所なのです。
実際よりも大きく描くのは、一般的には誇張とかデフォルメとか言われていますが、それともちょっと違うようなのです。「宮さんは見ていて気持ちいい絵を描く天才だ」と鈴木さんは言います。誇張しておおげさに描いているのではなく、脳にとってはむしろ自然な大きさで描いているのだと言うのです。だから見ていて気持ちいい。
これを無意識にやっているのが宮崎駿のすごさなのだ、と。
写真で見たときの「客観的なサイズ」と、自分の脳が認識している「実感としての大きさ」は違っていて、その「実感」をそのまま絵にできるのが、宮崎駿さん、ということなんですね。
この新書では、宮崎駿さんの「すごさ」が、こんなふうに、わかりやすく「言語化」されているんですよね。
川上さんは、そういう情報を整理・分析して言葉にするのが、ものすごく上手い。
「なぜ『となりのトトロ』がヒットしたのか、昭和の原風景とか、現代人の自然に対する回帰の欲望だとか、いろいろ難しいことを言う人はたくさんいる。でも、それは全部、的外れだと思う。トトロが人気になったのは、トトロのお腹がフワフワしていて、なんだか触るとへこんだりして気持ちよさそうだったからというのが本当の理由に決まっているでしょう」
宮崎駿さんのなにがすごいかと言うと、そういう人間の生理的な感覚をコンテンツとして再現できてしまうところです。映像をとおして人間の本能に訴えかけてくるのです。
鈴木敏夫プロデューサーは、よく会話のなかで「ストーリーか表現か」とひとりごとのように言うことがあります。
「観客は映画のなにを見ているのか? という問題なんですよ」
そして、「ストーリーよりも表現重視」だからこそ、ジブリの作品には、リピーターが多いのです。
ストーリーだけが売りであれば、一度見て話を理解できれば、もう一度観ようとは思わないですしね。
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20150409#1428576394
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20150325#1427279733
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20130808#1375958919