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南シナ海の米中対立は「出来レース」だ!|田岡俊次の戦略目からウロコ|ダイヤモンド・オンライン

 習主席は9月25日、ワシントンでオバマ米大統領と会談し、南シナ海での埋め立て問題は主要議題の一つだった。オバマ大統領は、それまで米海軍やタカ派議員達が主張していた「12海里以内での艦艇、航空機の航行」に対し、中国との関係の悪化を案じて慎重だったが、この会談後その実施を許可した。おそらく習近平主席から、間接的表現ではあっても、中国は武力行使はしない、との感触を得たと考えられる。


 現に「ラッセン」が人工島周辺を航行した際、中国海軍は「中国版イージス艦」とも言われるミサイル駆逐艦「蘭州」(7112t)と、フリゲート艦「台州」(1729t)を出したが、相当距離を置いて後方から「追跡、警告をした」だけで並走はせず「ラッセン」の航行を妨害しなかった。


 一方米国も「中国敵視」と言われないよう「ベトナム、フィリピンなどが領有を主張している岩礁から12海里以内を航行した」とも発表して、公平さを示そうとした。また米国務省のカービー報道官は27日の記者会見で米中関係への影響を問われ「世界のいかなる国との関係にも悪影響を与える理由はない」と答えた。これも事前に中国と暗黙の了解があったことをうかがわせる。


 中国が埋め立て、飛行場建設を行っているスビ礁、ミスチーフ礁は満潮時には水面下に没する「干出岩」だから海底の一部とみなされる。その上に構造物を造ったり、周囲を埋め立てても、海底油田の櫓と同様の「人工物」で領土ではなく、その周囲は領海にはならない。


沖ノ鳥島のように満潮時にも一部がなんとか水面上に出ている場合には、それを補強して保存すれば周囲は領海になりうるが、スビ礁などはそうではない。

 米国は今回の「ラッセン」等の行動を「航海の自由の確保」のため、と言うが、領海を外国商船が通過したり、漁船が操業せずに通る「無害通航」は自由で、中国もそれを妨げようとはしていない。世界最大の貿易国、漁業国、造船国である中国にとって世界的な「航海の自由」の確保はまさに「中核的利益」だろう。軍艦にも無害通航権はあるが、沿岸国の防衛、安全を害するような情報収集は許されない。米国などの商船が南シナ海を通ることには何の支障もないことを考えれば、米国の言う「航海の自由」はもっぱら「情報収集の自由」を意味する。


 公海とその上空ならば哨戒・情報活動は自由に行えるが、中国が南沙諸島海域に人工島を築き、それを領土だと主張して、その周辺での米軍艦や哨戒機の行動を規制すると米海軍の情報収集が妨げられる。国連海洋法条約でも人工島は領土とは認められないのは明らかだから、米海軍としてはその周辺海域を航行し、情報収集を行う実績を作っておこうとする。


 中国も人工島自体を「領土」とし、領海の根拠にするのは難しいことを承知しているから、南シナ海のほぼ全域を囲む9本の断続的な線、牛の舌のような形の「九段線」を示し、「それが歴史的な中国領海だ」と主張している。だが、その明確な根拠は示していない。


中国は宋の時代(960〜1279年)に磁石が発明されるなど、造船、航海術が著しく発達して巨大海洋国となり、南シナ海を多数の中国の大型帆船が往来し南海貿易が盛えたが、中国がその海域を「領海」として支配していた訳ではない。仮にその当時南シナ海で支配的地位にあったとしても、故に今日も中国の領海だ、との論は「ローマ帝国が地中海を支配していたから、今日も地中海はイタリアの領海だ」と主張するような無理な説だろう。


 ただ、「九段線」は中華人民共和国が唱え出したのではなく、蒋介石中華民国政府が1947年に南シナ海に11本の線を引いた地図を発行し、それが中国の権威が及ぶ範囲、としたのが始まり、とされる。1953年に中国はそのうち2本を削除した地図を発行し「九段線」となった。


蒋介石が残した負の遺産とも言える「九段線」を中国が撤回すれば良いのだが、一度「自国領だ」と主張すると、その根拠が不明確であり、主張を続けるのは対外政策上不得策であっても、それを取り下げるのはどの国でも国内で非難の的になるから、難しい。


南沙諸島岩礁の大規模な埋め立て、飛行場建設は相当な準備期間を要するから、おそらく習近平氏が2013年3月に国家主席に就任する以前に計画が決定していたと考えられる。前任の胡錦濤主席といえども、軍が「自国領の防衛を固めるため」と言えば、それを抑えにくかったのではないだろうか。


 中国としてはこの問題で米国との関係を悪化させたくはない一方、中国が主張してきた領有権を否定する米国の行動を座視していれば国内の“愛国者”達が騒ぎ立て、それに乗じて習氏の失脚を狙う者が出かねない。だから一応米国に抗議し、軍艦2隻で「ラッセン」を追尾させ「追跡、警告を行った」と発表し、実際には妨害はしない、という手緩い対応を取るしかなかったのだろう。


 また中国は「建造中の飛行場に軍用機は常駐させない。海難救助の拠点にもなる」と表明して米国、近隣諸国の非難をかわそうと努めている。幸い、中国では今回の米艦の行動に対して反米感情が高まった様子はなく、デモなども起きていない。

尖閣諸島については2014年11月、日中首脳会談を前に、双方が「異なる見解を有している」ことを認め「不測の事態の発生を回避する」ことで合意した。両者は従来どおりの主張は続けるが、現状は変えず、衝突は避ける、という事実上の棚上げで当面はおさまった。南沙の岩礁問題でもこれに似た玉虫色の状況になる可能性が高いのではないか。

http://d.hatena.ne.jp/d1021/20151101#1446374600
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20151030#1446201252
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20150811#1439289592(米国勢は2012年に訪米中の石原慎太郎都知事をけしかけ、日本政府を尖閣諸島の土地の国有化へと踏み切らせて以来、日本を中国敵視の道具に使う傾向を強めている。)
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20140330#1396176031
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20140327#1395917714


焦点:南シナ海で高まる中国のプレゼンス、米軍を「量」で凌駕 | Reuters

米国は、海軍のミサイル駆逐艦南シナ海で中国が造成した人工島付近に派遣したが、それは中国の艦隊が周囲で監視・追跡する中で行われた。


米海軍は今後も長い間、アジアで技術的優位を維持すると思われるが、それに対し中国は数で勝負していると言えるかもしれない。南シナ海では、多くの中国の海軍艦艇や巡視船が定期的に配備されている。


アジアや米国の海軍当局者は、中国が領有権を主張する、南シナ海の約90%が対象となる「九段線」の周縁部でさえ、中国船との遭遇が頻繁に起きていると語る。以前は、そのような遭遇は比較的まれだったという。


ミサイル駆逐艦ラッセン」が26日に派遣され、南沙(英語名スプラトリー)諸島の渚碧(同スビ)礁から12カイリ内を航行したのと同じような「航行の自由」作戦を定期的に行うと米当局者らが明らかにしたのを受け、そのような遭遇は増える一方となるだろう。


「彼ら(中国の海軍と巡視船)はどこにでもいる。そして、自分たちの存在を示したがっている。南シナ海にいたら、追跡されていると考えた方がいい」と、アジアにいる米海軍将校は匿名で語った。


実戦では米国の技術的優位が決定的となるだろうが、中国の数的優位は、とりわけ海上で対峙した場合は考慮に入れるべき事柄だと、安全保障の専門家らは指摘する。


米艦ラッセンスプラトリー諸島を航行中、中国の艦船は同艦を追跡していた。


中国の艦船は距離を保ちながらラッセンを追跡したとはいえ、自国が領有を主張し、造成した7つの人工島から12カイリ内を米国が繰り返し航行すれば、同国の忍耐を試すことになると、専門家らはみている。


中国の張業遂・筆頭外務次官は、米国のボーカス駐中国大使を呼び出し、米艦派遣は「極めて無責任」だと抗議した。一方、米当局者らは、国際法が許す限り、米国はどこでも飛行や航行を行うと繰り返し述べている。


緊張が高まる中、両国の海軍は29日にテレビ会議を開催。米政府高官は、双方が対話の継続と「洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準(CUES)」を順守する必要性で一致したと明らかにした。


中国は人工島にすでに1本の滑走路を完成し、さらに2本を建設中。人工島は中国にとって、東南アジアやそれを超えた海域への海洋進出の足掛かりとなるだろう。スプラトリー諸島では、ベトナム、フィリピン、台湾、マレーシアも実効支配している。


<地元の利>


国防総省が4月に発表した調査によると、南シナ海に配備されている中国の艦隊は、同国が保有する3艦隊のうち最大となる116隻で構成されている。


同調査はまた、中国が500トン型以上の巡視船200隻以上を保有しており、その多くが1000トン型以上だとしている。同国の巡視船隊だけで、他のアジア諸国の合計数をしのぐという。


一方、日本の横須賀を拠点とし、原子力空母ロナルド・レーガンが所属する米海軍の第7艦隊は55隻で構成され、西太平洋とインド洋の大半を管轄下に置く。


「中国には地元の利がある」と、オーストラリアの元海軍将校で、ラジャラトナム国際研究院(シンガポール)のアドバイザーを務めるサム・ベイトマン氏は指摘。侵入者とみなされる相手と対峙する場合など「いくつかの状況では、質よりも量が重要となり得る」と語った。


イトマン氏や他の同地域の安全保障専門家らは、航行の自由を掲げて哨戒活動を行う米艦船は今後、それを阻止しようとする中国の艦船に包囲されることになる可能性を指摘する。


中国国営メディアの報道によると、一部の中国人専門家は、中国が米艦船を阻止するための作戦を行うと警告している。


行動基準によって、米国の艦船は攻撃の口火を切ったり、事態をエスカレートさせたりすることには消極的となり、撤退を余儀なくさせられる可能性があると、ベイトマン氏は述べた。


米海軍はコメントを差し控えている。


だが、メイバス米海軍長官は近年、艦船数増加を優先事項としており、多くの場で「量は質を兼ねる」と語っている。


<プレゼンス拡大>


艦隊の増強や巡視船への取り締まりの一本化などから、南シナ海における中国のプレゼンスが着実に拡大していると、同海域で活動する海軍将校らは口をそろえる。


また、巡視船が同海域で従来は海軍が行ってきた哨戒活動の多くを担う一方、中国の探知能力が進歩したことで海軍も近くにいることが可能となったと将校らは指摘する。


過去2年間の南シナ海の衛星画像を見た専門家と海軍将校らは、中国の艦船は領有を争う複数の場所で半永久的なプレゼンスを維持しているとの見方を示した。


その中には、フィリピン沖の黄岩島(同スカボロー礁)や仁愛礁(同セカンド・トーマス礁)、西沙諸島(同パラセル諸島)からスプラトリー諸島の北部にかけて存在するいくつかの礁、マレーシアのサラワク沿岸沖にある南康暗沙(南ルコニア礁)が含まれる。


中国海軍はまた、マレーシアに近い曾母暗沙(同ジェームズ礁)付近でも哨戒活動を行っている。


中国は2013年1月以降、ほぼ常にプレゼンスを維持できるように巡視船を巡回させていると、オーストラリア国防大学で南ルコニア礁での状況を研究するスコット・ベントレー氏は指摘。


「中国は初めて、九段線全体を明確に主張するだけでなく、その域内の海域で領有権の主張を積極的に拡大しようとしている」と同氏は語った。