産経新聞の加藤達也前ソウル支局長は自社のウェブサイトに掲載したコラムで、去年4月に起きた韓国の旅客船沈没事故の当日、パク・クネ大統領の所在が一時、分からなくなっていたと伝えた韓国の有力紙「朝鮮日報」の記事を引用したうえで、パク大統領が元秘書の男性と一緒にいた可能性を示唆し、インターネットを使って大統領の名誉を毀損した罪に問われました。
これに対して加藤前支局長は、「記事には公益性があり、ひぼうする目的もなく、名誉毀損には当たらない」などとして無罪を主張していました。
17日の判決で、ソウル中央地方裁判所は被告はうわさが虚偽であると知っていたとした一方で、「記事は、私人としてのパク・クネ氏から見れば社会的な評価を深刻に阻害しているが、公人としての大統領の業務遂行については公的な関心事であり、名誉を傷つけたと見るのは難しい」と指摘しました。
さらに、「被告が記事を書いたのは韓国の政治や社会の事情を日本に伝えることが目的で、ひぼうが目的だったと見ることは難しい。言論の自由は韓国の憲法で保障されており、公職者に対する批判は可能なかぎり許容されるべきであり、公職者の権限が高ければ高いほど許容される範囲はより広くあるべきだ」とする判断を示し、無罪を言い渡しました。
17日の公判で裁判所は判決文の読み上げに先立ち、韓国外務省が提出した文書を読み上げるという異例の対応を取り、この中で韓国外務省は今回の裁判が両国の関係改善の障害となっているため大局的に善処すべきだと日本側から強く要望があったとしたうえで、「最近、両国関係の改善の兆しがあり、善処すべきだとする日本側の主張をしん酌することを望む」として配慮を求めていました。
加藤前ソウル支局長は、無罪判決を受けて、ソウル市内で記者会見を開き、「当然の判決であって、特別に感慨を抱くということはありません」と述べたうえで、検察に対し、控訴しないよう求めました。