灘高エリート教育の秘密は「幾何と国語」にあった!!――鈴木寛×津田久資対談【第1回】|あの人はなぜ、東大卒に勝てるのか|ダイヤモンド・オンライン
【鈴木】おっしゃるとおりですね。灘のロールモデルというのは、津田さんの言葉を借りれば、まさに「思考する野蛮人」ですよ。もちろん、「大学入試なんて戦略的にやれば簡単だ」とか「数学は暗記だ」と主張している灘の出身者もいますが、実際に行われている教育はまさにオーバースペックで、「受験に最適化されている」とはおよそ言い難いですよね。
たとえば私が灘にいたころ、中2の数学では「幾何」しか習いませんでした。1年かけてずーっとひたすら幾何を学ぶんです。幾何なんて大して入試に出ないんですが、あれがよかったと思いますね。灘高生の「思考力」を鍛え上げているのは、あの幾何を重視する伝統だと思います。
【津田】僕が受けた授業もまったく同じでした。しかも当時使われていた幾何の教科書って、えらく古めかしいガリ版刷りじゃなかったですか? 市販の教科書ではなかったと記憶しています。
【鈴木】そうそう、きっと旧制高校時代の教科書をそのまま使っていたんじゃないですかね。私のころにはまだ東京高等師範学校(現在の筑波大学の前身)とか帝国大学(現在の東京大学の前身)を卒業された先生方がかなりいました。彼らがやっていたのは、まさに旧制高校時代の教育なんだと思いますね。
【津田】日本でかつて最も優れた「考える」教育がなされていたのは、じつは旧制高校だったんじゃないかと僕は思っています。
灘は数学の時間でも、徹底的に「証明」をやりますよね。証明ができるかできないかというのは、まさに論理的思考力の有無に直結しますから。
いまでも覚えていますが、いきなり定理の証明をやるのではなく、ユークリッドの『原論』みたいに、公理から見ていくんですよ。「1つの直線とその直線上にない1点が与えられたとき、その点を通りかつその直線と平行な直線は1つ存在する」というようなところからやりましたから。
【鈴木】期末試験も定理の証明問題がメインで出題されていましたね。そうやって「考える」土台をつくる教育が構築されていたと思います。
【鈴木】まったくそのとおりですね。それは霞が関のエリート官僚たちを見ていても感じるところです。
他人のフレームを使うにしても、結局のところ、その根本にある原理原則・基礎基本が「なぜそうなっているのか」がわかっていないと、いざというときにプロダクトイノベーションができないんです。
今は「先行者利益」の時代ですから、後追いでは勝てない。工業化社会のときには、すでにある製品の生産性を上げるとか、不良品率を下げるとかいったプロセスイノベーションでもよかったんですが、今は違います。新しいプロダクトをいち早く生み出した人間が総取りする、“winner-takes-all”の時代なんですよね。
【鈴木】「言葉の意味」という話でいえば、灘高には国語の森本先生という方がいました。森本先生は本当に「言葉」にうるさかったですよね。言葉の意味がしっかり言えるまで、30分も40分も立たされている生徒がたくさんいたのを覚えています。
【津田】僕も森本先生には個人的にご自宅で「古文」を習っていました。古文を日本語に訳していくんですが、わからない部分を勝手に想像して訳したりすると、ものすごく叱られた。
「国語というのは、いい加減に想像してものを言うことと違うんや。君らはまず言葉の意味がはっきりわかってへん。勝手に想像するな!」って。
【鈴木】どやされましたよね(笑)。だから先生に指された生徒は、本当にひと言ひと言、言葉を選びながら答えていました。必死で頭をフル回転させてね。
あの授業というのは「どれだけ正確な言葉・表現を使うか」という点でものすごく鍛えられましたし、いま私が政治家や官僚と仕事をする中では本当に役に立っています。
【津田】そうでしょうね。
【鈴木】似て非なる言葉の違いを、境界線をきっちり引いてちゃんと言い分けられないといけない。まさにdefinition(定義。語源は「境界線をはっきりさせること」の意)ですよ。
仕事というのはやはり「言葉」の力がすべてのベースなんです。
高校時代、先生はよくこう仰っていました。
「君らはこれから東大に入って、将来は弁護士とか国家公務員になろうと思ってるんやろ?
言葉遣いがいい加減な連中が、人を弁護したり判決・法律を書いたりしたら、人の命に関わる。無罪の人が有罪になるかもしれん。
言葉を疎かにしたらあかん!」
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20151127#1448620453(野中郁次郎のリーダーシップ論)
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20151103#1446547030(アメリカの大学には、音楽家をめざす学生だけでなく、一般科目を専攻する学生にも、リベラルアーツとして音楽が学べる環境がある)
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20150131#1422700380(山下太郎)
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20141201#1417430504(幾何問題集)
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20141201#1417430505(デカルト1)
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20141130#1417344126(ケプラー)
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20141110#1415616085(アルキメデス1)
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20141109#1415529965(アルキメデス2)
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http://d.hatena.ne.jp/d1021/20131122#1385117662(デカルト2)
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20130917#1379415899(灘高国語教師)
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http://d.hatena.ne.jp/d1021/20120416#1334586022(いまや幾何学と宇宙論は切っても切り離せない関係にあります)
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20090126#1232976462(リベラルアーツ)
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