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「体育会系の縦社会では、往々にして『上の言うことは絶対』といった土壌ができあがっています。そうして尻を叩いて社員を酷使することで短期的な生産性は上がりますが、下の人間はリーダーや会社の業績を上げるためだけの“コマ”になってしまう可能性が高いのです」


 そうした体質の組織が「ブラック企業」と指摘され社会問題化している、と鈴木氏。ただし、完全縦社会の体育会系組織は昔から日本に存在していたし、むしろその体質こそが日本企業の特徴でもあった。ところが、高度経済成長期やバブル景気が終わりを迎え、「成熟期」に入った日本ではすでに、体育会系組織は時代にそぐわなくなってきているのだ。


「経済が右肩上がりのときは、体育会系組織で多少辛い思いをしても多くの人はその会社で働き続けることで給与も上がり、生活は豊かになっていきました。しかし、現代の社会では以前のような急成長は望めませんし、従来の終身雇用制度そのものも崩れています。十分な保障もないまま体育会の体質だけが残った結果、無理が生じブラック企業問題などが浮上しているのでしょう。こうした組織の下だと、すぐに結果が出せない“コマ”は潰される。それが一番の問題です。このような体育会系ブラック企業が蔓延することが、ひいては日本社会の疲弊につながるのではないのでしょうか」

 その後も編集者としてジャーナリズムの道を歩み、45歳の時に『フラッシュ』の編集長に任命されると、大幅な部数増を実現、写真週刊誌で業界2位の発行部数を達成した。その成功の鍵は、体育会系とは逆をいく部下の育成法にあったという。では実際に、鈴木氏が実行したリーダー術とはどのようなものだったのか。


「ひとつは、周囲の人に対しては柔軟な姿勢でいることです。もともと私自身が部下を一喝して引っ張っていける体育会系のタイプではなかったこともありますが、自分のやり方に従わせるのみだとレールに乗れない社員がドロップアウトしていくことは、自らの経験から分かっていました。特に、若い社員は競争の激しいビジネスの世界に身をおいたばかりで、自信を失いやすい。そうした人を頭から怒鳴りつけて否定すると、将来会社に貢献してくれるかもしれない人材を潰してしまうことになります」


「それよりは、多少不出来でも彼らの意見やアイディアを尊重してなるべく実現させてあげること。そのように新人の意見を採用することはリスクをともないますが、リーダーはこうした『リスクを背負う』ことが重要です」


 スタッフそれぞれの特性に合った、きめ細かなアプローチも鈴木氏の持ち味だ。


「他にも、フリーの記者やカメラマンには公平に仕事を回すこと、女性記者なら極力体調に気遣うようにするなど、とにかく人に合わせて多角的にアプローチしていきました。そうすることで各々が自分の能力を発揮するようになり、スタッフの質が高くなっていくのです」


 上の立場になればなるほど、仕事の利益率や業績は無視できなくなる。そうしたなかで、部下一人ひとりを見て育成することなど、まどろっこしく感じるだろう。それこそ、トップダウン方式で部下を“コマ”のように扱うほうが効率は良さそうだが、それでは長期的な利益につながらないという。より盤石な組織を作るには、根気強く人を育て、その上で「権力を分散させる」ことが重要だと鈴木氏は力説する。


「個々の能力を十分に発揮させるためには、いわゆる中央集権型の組織ではなく、『地方分権型』がベターだと思うのです。たとえば、『フラッシュ』では7つほど班があったので、問題が起きた場合は私が責任を取るにしても、ページ構成の決定に関する権限などは各デスクに委ねていました。そうすることで、スタッフの知恵を集めることができ、チームとしての力を発揮しやすくなりますし、人も育ちやすい」


「中央集権的な組織の場合、成功したらリーダーはスターになれますが、人が育たないのが難点です。出版の世界でもヒット誌を生み出した名物編集長は数多く存在しますが、サラリーマンである以上いずれは代替わりをしなくてはならない。いざそうなった時に、下の人間が育っていない編集部は極端に部数が落ち込んだり、雑誌そのものが廃刊になったりと如実に数字に表れます」


 鈴木氏は、人と業績は車の両輪のようなものだと語る。人が育つと業績も上がる、業績が上がると人も育つ。上に立つ人間はその相関関係を意識しなくてはいけないのだ。


 人を育てず業績ばかりに気を取られていると、どこかで歪みが生じてしまう。一代で東証一部に上場し大企業へと上り詰めた、ワタミヤマダ電機ユニクロなどが、近年では「ブラック企業」だとバッシングを受け、軒並み業績が下がり続けているのもひとつの例だろう。成長社会から成熟社会へと変化していくなかで、従来の日本企業の体質を見直すべき時がきている。