ヨーロッパ中央銀行は、21日、単一通貨ユーロの金融政策を決める理事会をドイツのフランクフルトの本部で開き、主要な政策金利を年0%に据え置くとともに、金融機関から資金を預かる際に適用しているマイナス金利の水準や、各国の国債などを買い入れて市場に大量の資金を供給する量的緩和の規模を維持することを決めました。
ヨーロッパ中央銀行は、先月、景気を下支えするため、主要な政策金利の引き下げやマイナス金利の幅の拡大、それに量的緩和の規模の拡大など、大規模な追加緩和に踏み切りました。
その後、発表された経済指標では、先月の消費者物価指数の改定値が前の月から横ばいとなるなど物価の低迷が続く一方で、ことし2月の失業率が4年半ぶりの水準まで低下し、雇用情勢には、改善の兆しも見え始めています。
理事会のあと記者会見したヨーロッパ中央銀行のドラギ総裁は、景気や物価の動向を見極めるため今回、金融政策を維持したと説明しました。そのうえで、今後については「必要であればあらゆる手段を活用する」と述べ、景気や物価の動向しだいでは、一段の金融緩和に踏み切る可能性を示唆しました。
ECB総裁、金融緩和「必要な限り継続」 6月から社債購入へ | ロイター
総裁はまた、月額800億ユーロの資産買い入れ策の一環として、6月から社債の購入を開始することを明らかにした。起債、流通の両市場で実施するとした。ただ公共事業に関連している企業が発行した債券については起債市場の買い入れ対象外となる。
<ドイツの批判と中銀の独立性>
ECBの金融政策を説明する一助となるため、丁寧かつ活発な議論は歓迎できる。ある種の批判はECBの独立性を脅かしていると受け取られ、投資やリスクテークを後退させる恐れがある。
ECBは独立した機関だ。(ECBの独立性を脅かすと受け取られるような批判によって)望む結果を得る時期は遅れることになる。
<EU離脱の是非を問う英国民投票>
英国の欧州連合(EU)加盟は相互に有益で、今後数週間、同様の主張を続けたい。ただ、この(英国がEUを離脱する)可能性をめぐる議論に伴い、市場ではすでに幾分顕著な影響がみられた。ポンド安は非常に顕著な一例だ。
国民投票までは確実に市場変動が続くとみている。投票結果や、恐らく投票後の状況についても推測したくない。
(英国のEU離脱が)ユーロ圏の景気回復を危うくする材料なのか。われわれのスタッフが行った評価によると、こうした事態が起こるリスクは限定的だ。
<低金利の悪影響>
年金基金や保険各社などが、低金利の深刻な影響を受けている。業界内でうまくいかなかった原因を、すべて低金利のせいにしないよう注意を促したい。ただ、こうした部門は深刻な影響を受けている。
低金利は、低成長や低インフレを示す症状だ。金利を引き上げたいのなら、高成長、高インフレに回帰する必要がある。貯蓄者に支払う利回りを引き上げるのは困難になると認識している。
<政策は効果的>
銀行の与信は、2014年第2・四半期以降伸びている。拒否件数は減っている。このことは、われわれの施策が最も効果的だったことを如実に示す。
<3月の政策>
ECBが3月に打ち出した政策は、世界金融市場の変調に伴う二次的影響を回避する一助となった。これら政策がなければ、今年のインフレ率はマイナスとなっていただろう。
<インフレ目標>
金融状況は全般的に改善した。成長ペースは緩やかだが、安定的となっている。インフレ率を2%を若干下回る水準とする目標を見失うことがないよう注意する必要がある。
3月に決定した金融政策スタンスを維持し、現時点では実施に移すことに注力している。
望ましくない金融の収縮が確認されれば、理事会はあらゆる手段を活用し対処する用意が整っている。
<ECBとドラギ総裁に対する最近のドイツからの批判にどう対応するかとの質問に対し>
ECBはドイツだけでなく、ユーロ圏全体の物価安定を維持する責務を担っている。これはユーロ圏の全加盟国に当てはまることだ。われわれは法律を順守する。
ECB理事会は中銀の独立性を守ることで全会一致している。ECBと他国の中銀との政策に大差はなく、われわれの政策は効果を発揮している。ただ、時間は必要だ。構造改革を伴えば、より速く効果が表れるであろう。
<ヘリコプターマネー>
前月も申し上げたが、これについては検討も協議もしていない。興味深い構想だが、分析していない。複雑な問題をはらんでおり、人によっても解釈が異なるかもしれない。2日前に議員から同じ質問を受けた際も、運用上、かつ法的、制度的にも多くの困難を伴うと答えた。
われわれは一度も話し合っていないというのが結論だ。
<構造政策の寄与不可欠>
他の政策分野が、国家、欧州レベルで、さらに決定的に寄与する必要がある。ユーロ圏で構造的失業が高止まりし、低い潜在成長率を踏まえると、構造政策は不可欠だ。
<インフレ率の低下>
インフレは今後数カ月に再びマイナスとなる可能性があるが、今年下期には上向くだろう。2017年にはさらに加速する見通しだ。
<成長リスク>
ユーロ圏の成長見通しに対するリスクは依然下方に傾いている。
とりわけ世界経済や地政学リスクの動向をめぐる不透明性がくすぶっている。
<景気回復>
(経済指標からは)2015年第4・四半期と概ね同様のペースでの成長が継続していることが示唆されている。景気回復が継続すると予想する。
<必要に応じて再度行動起こす用意ある>
(ECBは)物価安定の見通しの進展を注視し、必要に応じて責務の範囲内で利用可能なあらゆる手段を利用して対応する。
<金融状況>
ユーロ圏の金融状況は幅広く改善した。特に銀行システムを通じた企業と家計に対する金融政策刺激の伝達は強まっている。
<金融緩和>
世界情勢を取り巻く不透明性はくすぶっている。必要な限り適切な程度の金融緩和を維持することが不可欠だ。
<社債の買い入れ>
ECBは6月、的を絞った新たな長期資金供給オペ(TLTRO2)の第1弾を実施する。社債購入プログラムの下、買い入れを開始する。
<金利見通し>
理事会は主要金利が長期間かつ資産購入期間後も、現在の水準もしくはこれを下回る水準にとどまると引き続き想定している。