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孫正義の師匠×経済予測のプロ【スペシャル対談】 野田一夫×中原圭介(後編)|ビジネスで使える経済予測入門|ダイヤモンド・オンライン

野田 日銀の黒田東彦総裁は情けない男だね。「IMFの見通しの通り、来年にかけて成長が加速する」と述べたり、2%の物価目標が達成できないと「原油価格の下落は想定外だった」と言い訳したりしている。「自分が間違っていました!」と言うのなら男らしけれども、IMFの予想の通りになると言っておいて、うまくいかないと「想定外」と言うのでは、まるでIMFのほうに責任があるような言い方になる。こんなことを言われたら、IMFから文句が出てもいいくらいじゃないかな。

野田 経営者が潔くせざるをえないのは、成果がはっきりと出てしまうから。赤字が3期も4期も続いたら、偉そうなことを言っても誰も相手にはしてくれないよ。エコノミストにはそういった面がないんだよね。

中原 たしかに、野田先生を師と仰いでいるソフトバンク孫正義さんやエイチ・アイ・エス澤田秀雄さん、パソナグループの南部靖之さんのような創業経営者の人たちは、結果について言い訳をしませんよね。しかし、経営者でもサラリーマン社長には潔いとは言えない方々が数多くいるように思います。
 大手と呼ばれる銀行や商社、メーカーなど、経団連の役員になるような経営者の方々は、大半が潔くない気がします。たとえば、三井物産三菱商事は2016年3月期に創業以来初の赤字に陥りましたが、その原因について「市場環境の変化のため」とか「資源価格が下落したため」といった説明をしたのです。このような説明には「なぜそうなったのか」という最も大事な理由が抜け落ちていたわけです。

中原 経営者が大きな判断ミスをしたのであれば、それを教訓にすべきではないでしょうか。そもそもエネルギー資源の需給バランスが逆転する兆しは、すでに2012年には、米国のシェール企業の生産性向上によって見え始めていました。さらに2013年頃には、中国経済の減速が数年以内に深刻化することがさまざまなデータから推測できていたのです。エネルギー資源価格の暴落が起こることは、かなり高い精度で予測できていたわけです。
 予測できなかったというなら、なぜ予測できなかったのかをきちんと分析して次の機会に生かしてほしいですね。私は必ずしも経営者が経済の予測に長けている必要はないと思っています。企業のなかに経済の流れがわかっている人間が少数でもいれば、経営者の足りないところを補うことができますから。

中原 前回も述べましたが、私が経済事象について説明するときは、経済学の「○○の法則、〇○理論」といったものをまったく使いません。だから、結局、自分の頭で考えて、経済の先行きを論理的かつ合理的に考えていくしかないのです。


野田 経済学で出てくる法則というのは、物理学や化学で使うのとはまったく違うね。


中原 明らかに違います。たとえば、万有引力の法則であれば、引力があるからリンゴが落ちるわけです。「引力がある」が原因で、「リンゴが落ちる」が結果になるのです。これが経済学の法則や理論になると、原因と結果がひっくり返ってしまうことがあります。「リンゴが落ちる」が原因で、「引力がある」が結果になるという類のレベルの話になってしまうのです。因果関係を逆に考えても認めてしまうのが、経済学の根本的におかしなところではないでしょうか。今の日銀の金融政策の理論的支柱となっている「インフレ期待」などは、その典型例といえるでしょうね。

野田 もっと一般教養を身につけてから、経済学を学んだほうがいいのかもしれないね。


中原 たしかに、その通りです。一般教養をきちんと学んだ上で経済学に進むのならいいのですが、日本の大学生は一般教養科目をサボって、専門課程に進んでから頑張るという傾向があります。だから、基礎となる土台ができていない場合が多いのです。
 以前、東大で経済学を教えている先生と対談をしたときに、「経済学には間違った部分がたくさんあるが、東大生に経済学を教えるとそのまますべてを理解してしまうから、東大生は本当に優秀である」と言っていました。もちろん、これは皮肉なわけですが……。

中原 私は、2000年以前の世界経済と、2000年以降の世界経済を意識的に分けて考えるようにしています。なぜかというと、2001年に中国がWTOに加盟して、当時13億人近くいた人口が資本主義社会に取り込まれたからです。資本主義世界が、とりわけ教育水準が高く、かつ労働力が安い中国を取り込むことによって、世界経済は全体の規模を拡大させた上に、平均成長率を引き上げることができたわけです。
しかしその副作用として、先進国の成長率が低下していくのは避けられない状況になります。2000年以降の世界経済が全体で成長するのは、安い労働力が原動力となる一方で、安い労働力は良質といわれた先進国の雇用を次々と奪っていったからです。だから、2000年以降の世界経済については、それ以前の見方とは視点を変えていかなければなりません。
アメリカは今では低成長だと言われていますが、これだけ物資が溢れている時代に2%成長できるというのは十分な水準であると思います。ウォールストリートジャーナルやエコノミスト誌に言わせると、2%台の成長は低い水準だということになりますが、彼らが比較しているのは米住宅バブル期の4%台の成長率なのです。無理に借金を積み重ねていた時代の成長率と比較して、今が低いというのは明らかに間違っています。
 むしろ1%台の成長でも、人々の実質的な所得が上がって生活水準が下がらないのであれば、私はそれでもいいと思います。


野田 成長率の数字が問題ではないよね。実態がどうかのほうが大事だよ。先進経済になってくると、成長率が低くなるのは自然で、高成長率ばかり目指せば、その反動の打撃仕返しを受けるよ。1990年代の日本のように……。


中原 実は、1980年代後半のバブルの時期であっても、日本の物価上昇率は1%台半ばだったのです。少子高齢化が進む今の日本で、未だに人口が増加しているアメリカと同じ2%を超える物価目標を設定する必要性はあったのでしょうか。なぜ政府や日銀がその方向に舵を切ったのか、私にはまったく理解ができません。


野田 安倍首相はともかく、日銀総裁まで“2%目標”の達成にひどくこだわっているのは、まったく納得できない。


中原 港区などに住んでいるような裕福な人たちには、あまり悪い影響は出ていませんが、郊外や地方に住む人たちの生活は、輸入インフレによってかなり傷んでいます。だから、もう少し一般の人たちの生活実態を見て政策を決めていかなければいけないのです。そういう点では、アベノミクスを支える経済学には「心」が抜け落ちてしまっているように思います。
 欧米の主流派経済学を学んだ先生たちも、本当はクルーグマンバーナンキの言っていることがおかしいとは思いながらも、学生たちに教えているのではないでしょうか。既存の権威を1回壊すくらいのことをしなければ、経済学は本当の意味で生きた経済のためにはならないような感じがしています。

http://d.hatena.ne.jp/d1021/20161014#1476441443
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20160813#1471085085