金融政策に限界はある 大物経済学者が語る中銀の本音|金融市場異論百出|ダイヤモンド・オンライン
米連邦準備制度理事会(FRB)のジャネット・イエレン議長とスタンレー・フィッシャー副議長は、10月中旬に相次いで注目すべき講演を行った。日本銀行の黒田東彦総裁による最近の発言と比較すると興味深い点が多々出てくる。
2人の講演に共通するテーマは、「過去の米国の景気回復局面に比べて、なぜ今回の利上げペースは非常に遅くなっているのか」という点にあった。しかし、強調するポイントには違いがあった。
イエレン議長は「ヒステリシス効果」という概念を用いた。過去に起きた現象に影響を受けていることを意味する言葉だ。2008年以降の大不況のショックは、現在も米国の人々の行動を慎重化させている。それを打ち消すには、強い総需要と人手不足状態を伴った「高圧経済」が一時的に必要ではないか、と彼女は問題提起した。
これは年内の利上げの可能性を否定するものではないが、高圧状態を望むのならば、17年の利上げペースも非常に緩やかなものになるだろう。しかし、FRB議長が「高圧経済」という刺激的な言葉をあえて使うのは危険な面がある。
マーティン・フェルドシュタイン・米ハーバード大学教授は、FRBの超低金利政策が持続不可能なほどの資産価格の上昇を招いていると警告しているが(米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」10月8日)、イエレン議長の発言は火に油を注ぐ恐れがある。
ヒステリシス効果への対処には経済のオーバーシュート(行き過ぎ)を一時的に許容すべき、という考え方は、9月21日に日銀が発表した「総括的な検証」と似ている。日銀は、日本でインフレ期待が思うように上昇しないのは過去の経験に引きずられているからであり、それ故にインフレ率が目標(2%)をオーバーシュートするまで金融緩和を続けると宣言した。
一方、フィッシャー副議長は、過去の経験に照らしてみれば、オーバーシュートを狙った政策は失敗すると述べ、「高圧経済」を狙うスタンスを否定した。
黒田総裁は「金融政策に限界はない」「新しい挑戦を続ける」と述べているが、フィッシャー副議長は金融政策の限界にはっきりと言及した。彼はイエレン議長よりも“本音”を話している。
量的緩和やマイナス金利などの非伝統的な金融政策は、従来の金利引き下げ政策ほど効果はなく、生産性の伸びを鈍化させているイノベーション停滞と高齢化が進む人口動態の下では、FRBが大胆な緩和策を行っても実体経済を刺激しにくいという。
さらにフィッシャー副議長は、「長期金利が低いということは、人々の将来の経済予測がプアー(ひどい)であることを意味する」と警戒している。日銀が9月に10年物国債の金利(長期金利)をゼロ%に誘導すると宣言した直後から、長期金利はゼロ%を下回り続けている。金利低下を喜んではいられないということになる。
そのため、彼はイノベーションを推進するためのアニマルスピリッツ(野心的意欲)の鼓舞や、他の経済政策(財政破綻懸念につながらない範囲の財政支出策など)によって、中立金利を引き上げていくべきだと強調している。
米国は日本と比べれば、IT産業のイノベーションは圧倒的、高齢化は日本よりもはるかに緩やかで、堅調な人口増加が予想されている。それでも金融政策だけでは効果に限界があるならば、日本はさらに厳しい状況だといえる。やはり、日銀の金融政策に対する過度の依存はもうやめるべきだろう。
#FRB#イエレン