FRBのイエレン議長は10日、議会下院の公聴会に出席しました。去年12月に、FRBがゼロ金利政策を解除して利上げを始めたあと中国経済の減速や株安、原油安が進んで先行きの不透明感が増し、この日のイエレン議長の発言に市場の注目が集まっていました。
公聴会でイエレン議長は、アメリカ経済は雇用が拡大し緩やかな改善を続けているという見方は維持したものの「海外経済がリスクになっている。金融市場も成長を押し上げる勢いがなくなってきており、長引けば景気や雇用が下押しされる」と述べ、警戒感を示しました。
そのうえで今後の追加の利上げについて「定期的に見直して、適切に調整していく」と述べ、必要に応じ利上げの進め方を見直していく考えを示しました。ただ、いまのところアメリカが景気後退に陥るおそれは低く、再びゼロ金利政策に戻す事態は想定していないとして、徐々に利上げを進めていく意向を示しました。
FRBは、来月中旬に予定されている次の金融政策を決める会合で、追加の利上げについて検討しますが、市場関係者は、この日の発言を受け、来月の利上げは難しく、ペースも遅くなるのではないかという受け止めが広がっています。
イエレン議長:利上げ先送りの可能性示唆でも放棄はせず−議会証言 - Bloomberg
米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長は10日、最近の金融市場の混乱を受けて、米金融当局が従来想定していた追加利上げの時期を先送りするかもしれないものの、利上げの可能性を放棄する考えのないことを示唆した。
下院金融委員会で半年次の証言を行ったイエレン議長は、金融市場の動揺に伴う株安やドル高、一部借り入れコストの上昇によって、金融状況が「大幅に」引き締められたと指摘。「そうした状況が根強く続いた場合、経済活動や労働市場の見通しを圧迫する可能性がある」と語った。
米金融当局が昨年12月に2006年以来となる利上げに踏み切った際、16年中に0.25ポイントずつの計4回の利上げを見込んでいた。その後、金融市場は中国の人民元相場の下落や原油急落といった一連のショックに見舞われ、投資家の間では世界経済の見通しをめぐる懸念が高まった。
だがイエレン議長は、米国内もしくは世界的にも経済成長の急激な鈍化は見られないとし、中国についても「最近の経済指標は急速な減速を示していない」と分析。15年10−12月(第4四半期)に鈍化した米経済は今年1−3月(第1四半期)に勢いを取り戻すとともに、8年ぶりの低水準となった失業率の下で、賃金の伸びが加速するとの見方を明らかにした。
オックスフォード・エコノミクスUSAのエコノミスト、キャスリーン・ボストジャンシク氏はリポートで、「イエレン議長は下振れリスクの高まりを認める一方で、慎重ながらも楽観的な見通しを維持した」と記した。
イエレン議長は金利の次の動きに関し、米連邦公開市場委員会(FOMC)では引き下げではなく、引き上げだと引き続き考えているとし、「利下げが必要な状況にFOMCがすぐに置かれるとは想定していない」と言明した。
さらに、緩やかなペースでの持続的な景気拡大と労働市場の一層の改善に向けて、金利を徐々に引き上げていくとの米金融当局の方針を重ねて表明した。
米金融当局でエコノミストを務めた経歴を持つ米ジョンズ・ホプキンス大学のジョナサン・ライト教授は、「議長が政策について発信しようとしたメッセージは、引き締めは遅れるが、長期的な見通しはあまり変わっていないという内容だ」と話した。
一方でイエレン議長は、米経済が深刻な悪化に見舞われた場合、他国・地域の中央銀行の一部に追随する形でマイナス金利導入に踏み切るかどうかは態度を明確にしなかった。同議長は慎重な計画立案の一環として「それを検討する方針で、そうしなければならない」とコメント。その上で、米金融当局としてマイナス金利を導入する法的権限があるかどうか判断を下していないと付け加えた。
ブルームバーグ・インテリジェンスのエコノミスト、カール・リカドンナ、リチャード・ヤマローネ両氏は10日のイエレン議長の証言についてのリポートで、「米金融当局から冷静さを呼び掛けるメッセージを伝えた」と論評。「議長は金融状況の悪化や世界的な成長見通しの後退、商品相場安の影響を含む潜在的な懸念材料を認めたが、経済の明るい材料もあらためて強調した」としている。
Yellen Suggests Fed May Delay Rate Rises, Not Abandon Them - Bloomberg Business
イエレンFRB議長:マイナス金利の合法性には疑問残る、調査が必要 - Bloomberg
イエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長は、マイナス金利を米国内で合法的に導入できるかどうか、米金融当局としてはまだ判断がついていないと述べた。
イエレン議長は10日、下院金融委員会での議会証言後の質疑応答で、マイナス金利の合法性について「当局は引き続きより徹底した調査を行う必要がある」と述べ、「金融当局がマイナス金利を導入できない理由は認識していないが、法的問題についてはまだ完全に調査が完了していない。引き続き調査が必要だ」と続けた。
FRBが先月ウェブサイトで公表した2010年のスタッフメモによれば、米金融当局は超過準備の付利(IOER)を支払うことは法律で認められているが、利子を課す権限も当局に認められいるかについては疑問が残るとした。
メモの執筆者はマイナスのIOER導入には「幾つかの実体的な法律上・実際上の制約が存在する可能性」があると指摘、さらに連邦準備法がマイナスのIOERを認めるかどうか「全く不明」だとした。
イエレン議長は「これは連邦公開市場委員会(FOMC)が2010年ごろに検討した議題だ」と述べ、「この時点では法的な課題を完全に検証しなかった」と発言した。
Yellen Says Legality of Negative Fed Rates in Question - Bloomberg Business
米FRB、引き締めサイクル覆す公算小さい=イエレン議長 | Reuters
米連邦準備理事会(FRB)のイエレン議長は10日、下院金融委員会で行った証言で、金融情勢の引き締まりや中国をめぐる不透明感などが米経済に対するリスクとなる恐れがあるとの認識を示しながらも、FRBが12月に開始した金融引き締めサイクルを覆す必要が出てくる公算は小さいと述べた。
イエレン議長は質疑応答で「リセッション(景気後退)のリスクは常に存在し、世界的な金融情勢が景気減速につながる可能性があると認識している」としながらも、「この先に米経済を待ち受けているものについて早まった結論に飛びつくことがないよう注意したい」とし、「連邦公開市場委員会(FOMC)が近く利下げを行う必要に直面するとは想定していない」と述べた。
また、マイナス金利導入については「われわれは用意周到な計画作り(prudent planning)に基づきどのような選択肢が利用できるか常に検討する」としながらも、望ましい選択肢ではないとの考えを示した。
FRBは前年12月に利上げを決定し、事実上のゼロ金利政策を解除。この日のイエレン議長の議会証言は12月の利上げ後、公の場での初めての見解表明となった。
投資家は年内の追加利上げの可能性はほぼ消えたとみているが、議長の発言はいずれの選択肢も残した格好となった。
コーナーストーン・マクロのアナリスト、ロベルト・ペルリ氏は「議長が伝えたかったのは、利上げは基本シナリオだが、まずは市場が安定化する必要があるということだ」と述べた。
証言では、株安に伴う金融情勢の引き締まりや、中国をめぐる不透明感、信用リスクの世界的な再評価で米経済の歯車が狂う恐れがあるとの認識を表明した。
ただ、米経済の成長は継続し、FRBは計画通りに段階的に金融政策を調整していくことができるとの考えを強調。「現在見られる雇用増、および賃金上昇の加速により実質所得の伸びが支援され、結果的に消費支出も後押しされる」とし、他の主要中銀がマイナス金利を導入するなど緩和的な金融政策を維持する中、「世界的な経済成長は次第に上向く」との認識を示した。
米経済の現況については、家計収入や資産が増大しつつあり、国内消費も伸び続けたと指摘。年後半に石油部門以外の設備投資が加速したとの認識を示した。
米金融部門は原油や世界の社債市場低迷のストレスに耐えており、国内主要銀のエクスポージャーは限定的と指摘。ただ「これら部門の状況が悪化すれば、より広範にストレス要因が生じる可能性もある」とした。
議長は、労働市場の改善が続き、インフレ率もFRB目標に向けて上昇すると予測。「経済活動は向こう数年間、緩やかなペースで拡大し、労働市場の各種指標も引き続き堅調な内容となるだろう」と述べた。失業率は現在4.9%と、FRBが完全雇用に近いと見なす水準にあるが、議長は想定通り景気が回復すれば、一段と低下するとの見方を示した。
FRB議長下院証言、超過準備付利に与野党から批判集中 | Reuters
イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長が下院金融委員会で行った半期に一度の証言では、超過準備への付利について共和・民主両党から批判が集中した。
下院金融委のジェブ・ヘンサーリング委員長(共和)は銀行への「補助金」に当たると指摘。同委で民主党トップのマキシン・ ウォーターズ議員も「銀行への支払い」に大きく依存することなく金利を引き上げる方策を見い出すよう要請した。
FRBは約10年ぶりの利上げを決めた昨年12月、超過準備金利も0.5%に引き上げている。
これに対しイエレン議長は、超過準備への付利は金融政策の運営上「不可欠」と指摘。FRBが巨額のポートフォリオ保有で得る利子収入は、超過準備金利として銀行に支払う額をはるかに上回っており、2015年の国庫納付額は1000億ドル近くに達したと説明した。
また超過準備への付利を行なう能力がFRBになければ、「かなり性急にバランスシートの大幅縮小を迫られ、そうなれば経済に悪影響を及ぼす」と指摘。超過準備金利を引き上げる能力を持つことにより、FRBは4兆5000億ドルのバランスシートを維持しつつ、金融政策を引き締めることができるとした。
金融規制改革の負の側面を懸念=米FRB副議長 | Reuters
米連邦準備理事会(FRB)のフィッシャー副議長は10日、首都ワシントンで講演し、金融規制改革が実施されたことで、信用市場のパニック防止が難しくなった面もあるとの見方を示した。
ドイツ銀行(DBKGn.DE)の利払い能力に対する懸念が高まったことを受けて、世界的に銀行株が売られる中で行われた講演で副議長は、2010年の金融規制改革法(ドッド・フランク法)には、将来的な金融危機の防止の努力を支援した面と、阻害した面があると指摘した。
公表された講演テキストによると、副議長は「新たなシステムは、まだストレステストを経ていない」と述べた。
副議長は、2007─09年にかけての金融危機の後、金融規制改革が進んだことで、金融機関はショックに対する耐性を強め、「最後の貸し手」としてのFRBに頼らねばならない状況に陥る可能性は減ったと指摘した。
一方で、FRBの支援が必要となる時は来るとも強調。緊急時の流動性供給制度である「ディスカウント・ウインドウ」について、FRBがプログラム運営の詳細を開示しなければならなくなったことで、金融機関が利用をためらう可能性があることを懸念した。
副議長は「金融市場が用心深くなった際に、中央銀行から借り入れをするのは不名誉なことだという問題を未解決のまま残した」と述べ「ドッド・フランク法の報告義務は(金融機関にとって)不名誉(になるという)問題をさらに複雑にしたかもしれない」と付け加えた。
FRBはディスカウント・ウインドウ制度について集約された統計しか公表していない。ただ、2年間のタイムラグをつけた上で、より詳細な報告を提示することになっている。
FRBのイエレン議長は10日の議会証言で、金融環境が引き締まってきていることに加え、中国経済の先行き不透明感や世界的な信用リスクの再評価が、米経済の見通しに脅威となっていると述べた。
<近く利下げを行う必要想定せず>
連邦公開市場委員会(FOMC)が近く利下げを行う必要に直面するとは想定していない。
労働市場が堅調に推移し、改善し続けていることを念頭に置いておいてもらいたい。インフレを抑制している多くの要因は一時的なものだと、引き続き考えている。
リセッション(景気後退)のリスクは常に存在し、先ほども述べたように、世界的な金融情勢が景気減速につながる可能性があるとも認識している。ただ、この先に米経済を待ち受けているものについて、早まった結論に飛びつくことがないよう、注意したいと思う。
利下げを行う必要が出てくるとは思っていない。ただこれまでも言ってきた通り、金融政策はあらかじめ決められた軌道に乗っているわけではない。(利下げが)必要になった場合、FOMCは当然、議会に委託された責務を果たすために必要な決定を行う。
<GDP伸び率>
GDPの伸びは第4・四半期に顕著に減速した。現四半期には上向くと予想しているが、金融情勢の大幅な引き締まりが見られることから、見通しに影響が及ぶ可能性はある。
<賃金の伸び>
現時点では暫定的なものだが、賃金の伸びの兆候は増大している。 労働市場の進展が続けば、賃金をめぐる進展も加速すると大きく期待している。
<原油価格の下落>
エネルギー部門が非常に大きな打撃を受けていることは考慮に入れている。
同部門では雇用が失われており非常に大きな痛手となっているものの、全体の雇用(市場)から見るとかなり小さい部門ではある。ただ、探査活動は大幅に縮小され、製造業全体に全般的な影響が及んでおり、マイナスの影響は出ている。
一方、2014年と現在の原油価格の差を見ると、米国の平均的な家計は年間1000ドルを節減できていることになり、消費支出の押し上げにつながっている。
<バランスシートの縮小>
FRBは短期金利が幾分上昇するまで、バランスシートの縮小を待つ意向だ。
<マイナス金利は政策手段>
「用意周到な計画作り(prudent planning)」の一環として、欧州で講じられた措置を踏まえ、FRBはマイナス金利の導入について検討する。これは導入が必要とされる根拠があるからではなく、どのような手段が利用可能かを見極めるためだ。
マイナス金利導入にあたっては、法的な問題だけではなく、米国の支払いシステムや米短期金融市場の組織構造が対応可能かどうかといった問題についても検証が必要だ。
現行の政策下での米債務の軌道に注目すれば、債務は現在の水準から対GDP比で100%を大幅に上回る水準に拡大し、多かれ少なかれ永遠に増加の一途をたどることになる。持続不可能な状況にあるとの判断を下す必要がある。
<債務状況>
米債務の対国内総生産(GDP)比率は、現在の水準で今後何年にもわたり持続可能のようにみえるが、米議会予算局(CBO)の見通しからも明らかであるように、高齢化に伴い、将来的には持続不可能な増加につながる恐れがある。この問題をめぐっては、議会は何十年も認識してきており、対処することが重要だ。
現行の政策下での米債務の軌道に注目すれば、債務は現在の水準から対GDP比で100%を大幅に上回る水準に拡大し、多かれ少なかれ永遠に増加の一途をたどることになる。持続不可能な状況にあるとの判断を下す必要がある。
<世界市場の混乱>
世界金融市場の動向を非常に注意深く見守っている。年初来みられるストレス要因は、中国の為替相場政策や、原油価格をめぐる不透明感に関連しているようだ。市場でみられた急激な動きをもたらすほど顕著と考えられるシフトは確認していない。景気後退リスクへの懸念が高まった結果、リスクプレミアムが上昇したようだ。世界的にも米国でも成長急減速はまだみられない。ただ、世界市場動向を注視する必要性を十分認識している。
<利上げ軌道>
金融動向が(これまでと比べて)成長を下支えしなくなっており、見通しに影響を及ぼす可能性もあり、現在精査している。金融政策はあらかじめ決められたコースをたどるわけでないことを明確にしたい。従って、こうした動向が景気見通しに与える公算が大きい影響や、雇用とインフレ両方の目標を達成するわれわれの能力を評価する。これらが、今後の金融政策スタンスを左右する要因だ。
<FRB資産の売却>
長期資産を売却すれば、経済に大きな支障をきたす可能性がある。景気回復を阻害する方策で、もちろん国民に示したものでもない。われわれはバランスシートを段階的かつ予測可能な方法で縮小していく方針を示している。
政策を予想より速いスピードで引き締める必要がある場合でも、逆に緩和する必要がある場合でも、われわれは用意周到な計画作り(prudent planning)の精神に基づき、どのような選択肢が利用できるか常に検討する。
このようにわれわれは(マイナス金利について)検討する。ただ、法的な面について徹底的に検討されたと言う用意は、現時点ではまだない。
(マイナス金利導入を)阻むものがあるとは認識していないが、われわれはまだ法的な面について十分に検証していない。今後、そうしたことが必要になる。
#FRB