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司法試験と刑法学説に関する昔話 - 黒猫のつぶやき

小野清一郎 →団藤重光(東大教授)→大塚仁(名大教授)
                    田宮裕(東大教授)
                    井上正仁(東大教授)など
         平野龍一(東大教授)→山口厚(東大教授)
                    前田雅英首都大学東京教授)など

 上記のうち,昔の受験生に参考としてよく使われたのは団藤説や大塚説などですが,彼らの学説は独自の問題意識に基づいて,判例や実務の動向とは無関係に自らの刑法理論を作り上げ,その理論に基づいて判例を批判するのが彼らにとっての美徳とする傾向がありました。団藤教授や平野教授の弟子で,東大に残った刑法学者として著名なのは山口教授ですが,黒猫の見る限り,山口教授もそのような東大刑法学の伝統を引き継いでいるように感じられました。

 事例中心の新司法試験時代になり,刑法の勉強でも学説の比重は減るだろうと考えていたのですが,受験生向けのサイトを見ると,なんと基本書に関しては前田教授の本が急速に勢いを失い,それに代わって山口教授の本がベストセラーの地位を獲得しているようです。

 最近の受験生の中には,上記のように山口教授の本を使って勉強している人もいますが,その一方で予備校のテキストや司法協会の『刑法総論講義案』を使って判例中心の勉強をしている人もいるようであり,今後どちらが司法試験合格者の中で有力となるのか,黒猫としては若干興味があるところです。

刑法の基本書についての誤解 - ゆるふわ刑法ブログ

より厳密に言えば、基本書を重視しない勉強方法のほうが合格する確率が高いからそうすべきだということです。このような言い方は色々な意味で大変心苦しいのですが、実際のところ、合格者の多くはそういう人たちです。しかし、後述しますが、これは基本書中心の勉強方法が多くの人にとって受験に最適ではないということなのであって、基本書中心の勉強方法自体が悪いことを意味しません。なんだか矛盾するようなことを言っていると思われるかもしれません。しかし、ここでクローズアップしたい問題は、なぜ「基本書中心の勉強方法では合格しない」のかという部分です。個人的には、ここをよく分かっていない方が多いように思います。


理由は、極めてシンプルです。そもそも基本書は、能力のある人にしか読みこなせないからです。誤解がたいへん多いですが、基本書が受験向きでないことや、実務から離れた机上の空論であること、通説を採用していないことなどは、事実か否かにかかわらずほとんど関係がありません(無関係とまでは言いませんが)。

刑法総論では、団藤・大塚説が通説であると考える人もいるかもしれません。たしかに、団藤先生や大塚先生の見解は、学説・実務に大きな影響を与えています。現在の学説は、団藤・大塚説から展開されたものであるとさえ言えるでしょう。団藤・大塚説は、実務家にも広く共有されています。しかしながら、だからといって団藤・大塚説が通説であるとは言えないのではないでしょうか。例をあげてみましょう。共謀共同正犯否定説は、もともと団藤・大塚説が採用していた学説です。現在の学説は、これを踏まえて展開されています。実務でも共謀共同正犯否定説を知らない人は(たぶん)いません。しかし、共謀共同正犯否定説を通説と呼ぶには、明らかに問題があります。なぜならば、もはや支持する人がいないと言いうるからです。したがって、団藤・大塚説は、必ずしも通説ではありません。皆さんの中には、裁判所書記官研修所編の『刑法総論講義案』を使っている人もいるかもしれません。これも誤解のひとつですが、同書は、実務で使われている見解について書かれたものではなく、書いた実務家の学生時代(あるいは初版を書いた当時)の通説・有力説(すなわち、団藤・大塚説)について実務を考慮して記述したものなのです。

http://d.hatena.ne.jp/d1021/20090519#1242695912(團藤重光: 時代によって変化してゆく民衆の考え方が判例の中に織り込まれてこないといけない。でもそれは、法が本来守るべき本質を、時代を超えて一貫してゆくための変化で。)

Amazon.co.jp: 最新重要判例250 刑法 第8版の Redwingさんのレビュー

前田教授の実質的犯罪論は「理論」ではない、と言われることがある。
特に実質的故意論については伝統的な故意概念との乖離が激しかったこともあり前田理論は全体として、結果無価値でも行為無価値でもないものと位置づけられ正当な評価を受けなかった側面もある。


まず、前田理論の特徴は、構成要件・違法性・故意の実質化という実質的犯罪論を打ち立てるにあたって、判例の準則を分析し、自らの体系に取り込んでしまう点にある。
刑法理論を構築するとき、伝統的な理論刑法学者は「理論があってその適用結果として判例がある」と考えるのだが、前田教授には「現に存在する判例群を整合的に整理するにはどのような理論を実質的に組むべきか」という発想があるといってもいい。
この点を突いて判例追従の御用学者」等の批判をする論者もいる。
評価の是非はおくとしても、端的にいって、根本の発想がそもそも異なることは間違いない。

前田雅英 - Wikipedia

前田の刑法学説の基本的立場は、平野龍一と同じく結果無価値論に立脚するが、国民の「規範意識」と結論の具体的妥当性を重視する「実質的犯罪論」の立場から理論を修正して、未遂犯と不能犯の区別において客観説をとりつつ、その判断時を行為時とするなど、行為無価値論に近い結論に至ることが多い。


刑法各論においても、罪刑法定主義から導かれる法的安定性を図りつつも、国民の利益を守るためには、現実の現代社会の犯罪現象を踏まえ、処罰すべき行為は処罰して具体的妥当性を図る必要があるとして、判例・実務を重視した解釈態度を基本としている。


判例を、「裁判所がその時期の『国民の「規範意識」』をすくい上げたもの」と捉えており、実務の結論を基本的に尊重し、結論の妥当性より理論の整合性を重視して判例と対立してきた前世代の刑法学者とは一線を画する。裁判員裁判制度は、うまく機能すれば国民の規範意識を法理論に反映しうるものとして、積極的に評価する。また、『国民の「規範意識」』は各国ごとに差異があると捉えており、ドイツ法理論で日本の法学を議論することや、レーガン大統領暗殺未遂事件を受けて、アメリカの多くの州で責任能力の抗弁を制限したことを安易に批判することについては、批判的である。

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http://d.hatena.ne.jp/d1021/20170221#1487674489
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20170207#1486464473トロイの木馬

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