黒田総裁よ出口を語れ−今の日銀は「完全に思考停止」と翁元金研所長 https://t.co/ZoMPO3xhC1 pic.twitter.com/ax9I4Evit7
— ブルームバーグニュース日本語版 (@BloombergJapan) 2017年5月31日
元日本銀行金融研究所長の翁邦雄氏は、黒田東彦総裁が異次元緩和の出口論を避け続けていることで、日銀は出口について「完全に思考停止」に陥っており、将来のスムーズな退出の余地を狭めているとの見方を示した。
異次元緩和の発動から4年以上たち、今も終わりが見えない中、黒田総裁は国会や記者会見で出口論は時期尚早と繰り返している。翁氏は5月29日のインタビューで、「出口論で必要なのは、具体的な金利引き上げ時期や幅をめぐる議論ではなく、日銀の財務がき損したらどうするのか、き損を食い止めるためにはどうすればよいかという議論だ」と主張する。
岩村充早稲田大学院教授が金融政策の自由度を回復できる永久国債引き受けを提案していることや、バーナンキ前米連邦準備制度理事会(FRB)議長が2003年の講演で、日銀保有国債を変動利付債に変え財務がき損しないようにすれば、国債を引き受けても政策の自由度は損なわれないと述べたことは「スムーズな出口を考える上で役に立つ」と指摘。特に前者は「非常に刺激的」と評価する。
戦前の日銀の国債引き受けは戦後のハイパーインフレを招いたとの指摘も多いが、翁氏は「表明して実際に引き受けるまでの半年間、日銀と大蔵省(現財務省)が協議し、日銀が買った国債は市場に売却することで合意した」と言う。実際9割ほど売却したので、「高橋是清蔵相が生きている間は財政ファイナンスにはなってない。それができたのは、売れるという前提で日銀が引き受けたからだ」と説明する。
翁氏は「出口を楽にする工夫はいろいろある。何も語らず、決して売れない長期国債をどんどん買い続けるのはあまり賢いやり方ではない」と語る。翁氏は1974年に日銀に入行、06年に金融研究所長を退任した後、京都大学教授などを歴任、現在は法政大学院客員教授を務める。1990年代前半、岩田規久男副総裁と日銀がマネーの量をコントロールできるかどうかをめぐり論争を繰り広げたことでも知られる。
シニョレッジ
日銀が2%の物価目標を達成した後の出口では、物価上昇に合わせて、金融機関が預ける日銀当座預金に対する付利金利を引き上げていくことになる。長期にわたる超低金利により、日銀が保有する国債の利回りが低下しており、金融機関への支払金利が国債の利回り収入を上回る「逆ざや」となることが予想されている。
元日銀理事の早川英男・富士通総研エグゼクティブフェローは4月24日のセミナーで、出口において日銀が巨額の損失を被り、規模は「年間数兆円」に達すると指摘した。3月末の日銀の自己資本は7.8兆円。赤字が数年間続けば債務超過に陥るとの試算も出ている。
黒田総裁は2月28日の参院予算委員会で、金利が上昇した場合、水準によっては含み損に転化する可能性があるが、「中央銀行には継続的に通貨発行益が発生するので信認がき損されることはない」と述べた。中央銀行は国債を購入する対価として無利子の銀行券(お札)を発行しており、通貨発行益(シニョレッジ)と言われる国債利息収入を得ることができる。
お札の行方次第
BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは3月10日付のリポートで、日銀が債務超過に陥った場合、将来得られるシニョレッジという仮想の勘定を「繰り延べ資産」として計上して自己資本に充当し、会計上債務超過を解消する可能性を指摘している。「現在の日本の法律では認められていないが、米国では連銀に対しこのような措置を認めている」と言う。
将来どれくらいシニョレッジを得られるかは中長期的な銀行券の残高次第。5月20日時点の残高は99兆円だ。国際決済銀行(BIS)が主要先進国・新興国を対象とした15年の調査では、名目GDP(国内総生産)に占める比率は19.4%と突出して高く、キャッシュレスが進むスウェーデンの1.7%と好対照をなしている。
翁氏は「決済の形として進んでいるのは明らかに北欧型で、銀行券に対してもグローバルな潮流としては逆風が吹いている」とみる。将来のシニョレッジを考えた時、銀行券に今のように強い需要があり、シニョレッジの源泉になるというのは、「長期的かつ安定的に言える話ではない」と語る。
債務超過になったら
雨宮正佳理事は昨年3月31日の参院財政金融委員会で、過去にチェコ、イスラエル、チリの中央銀行が保有外貨資産の評価損で債務超過に陥った例があるが、「基本的には中央銀行に対する信認はこの間維持されており、物価や金融システムの安定という面で、これによって大きな問題が生じているわけではない」と述べた。
翁氏は「債務超過に陥っても金融調節はできるはずだというのはその通りだが、チリ政府は同時に、財政規律を守る政策を強く打ち出したので物価安定は壊れなかった」と説明。債務超過になった際に信認を維持できるかどうかは「経済そして政府がどの方向を向いているか次第だ」と言う。日本の場合、「債務超過の中央銀行と財政規律ある政府という組み合わせは、なかなか難しい気がする」との見方を示した。
翁氏は「少子高齢化で生産年齢人口がどんどん減っていることは、将来の成長期待を下げ、需要の押し下げるという意味で当面デフレ要因だが、供給力が落ちていくわけだから、どこかでインフレ要因に変わってもおかしくない」と主張。転換点が来た時、「全てインフレ方向でベクトルがそろったら、インフレは簡単に止まらなくなる」と懸念する。
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20170529#1496055107
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