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インフレターゲットを意識しながら価格を決める小売業はいない」。イオンの三宅香執行役は、プライベートブランド商品の値下げを発表した8月23日に、そう述べた(「日本経済新聞」)。


 確かに、海外で長くインフレ目標を採用している国でも、中央銀行インフレ目標を基準にしながら価格設定を行っている企業経営者は実際あまりいない。


 ニュージーランドインフレ目標の成功例として取り上げられることが多い。しかし、オークランド工科大学のSaten Kumar博士らの論文「インフレ目標はインフレ予想をアンカーしていない(いかりで留めていない)」(2015年)によると、同国の2%というインフレ目標を知っている企業経営者は、わずか12%しかいなかったのだ。


 経営者のインフレ予想は、インフレ目標ではなく個人の買い物の経験による影響が強く、その傾向は米国でも観察できるという。


 インフレ目標の効果に懐疑的なアラン・ブラインダー元米連邦準備制度理事会FRB)副議長は、「大半の人は中央銀行に高い関心を持っていないことをこの論文は思い出させてくれた」と絶賛。中銀が2%と言えば人々のインフレ予想がそこに収斂する、という効果は現実には限られるといえる。

 2%のインフレ目標達成の見通しが立たないと、FRBは利上げを再開しない。米国が低金利から抜け出せないと、他の国々も金融引き締めを行いにくい(対ドルの為替レートが上昇するため)。ここで懸念されるのは資産バブルだ。


 国際決済銀行(BIS)のデータによると、過去10年間の住宅価格の上昇率はカナダ69%、オーストラリア76%、スウェーデン86%だ。日本のバブル期に匹敵する危うい過熱ぶりだ。人口が増加している国で低金利政策が長期化すると、バブルが起きやすくなる。


 日本はそれらの国々よりも大胆な金融緩和策を実施しているが、人口減少のために住宅バブルは局地的だ。ただ、日本銀行の政策のせいで明らかにバブルが膨張している市場がある。国債だ。それがもたらす歪みが先行き懸念される。


 ウィリアム・ホワイト元BISチーフエコノミストは、近年次のように警鐘を鳴らし続けている。


「物価の安定が実現すれば全てうまくいく、という中銀の今日の信念には根本的誤りがある。物価安定が金融や信用、債務の拡張によってのみ達成されるのなら、最終的な結果はシステミック(全体に波及する)な危機を増大させる」


「ある状況においては、デフレは問題視されるべきではない。生産性が成長しているなら物価は下がる。家電製品の価格は下落し続けているが特に問題はない。中銀が2%のインフレを欲してこのトレンドにあらがった場合、大きな問題につながる不均衡を生む可能性が非常に高い」

#リフレ#アベノミクス