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労働契約法20条では、正社員と非正規社員の間に「不合理な格差」を設けることが禁じられていて、その解釈が裁判で争われています。


横浜市に本社がある「長澤運輸」を定年退職したあと、嘱託社員として再雇用されたトラック運転手の男性3人は、正社員と仕事の内容が同じなのに賃金に格差があるとして会社を訴えました。


1日の判決で、最高裁判所第2小法廷の山本庸幸裁判長は、格差が不合理かどうか判断する際は、賃金の総額の比較だけでなく、手当などの趣旨を個別に考慮すべきだとする初めての判断を示しました。


また、仕事の内容だけでなく、定年後の再雇用だという事情も考慮の対象になるという判断も示しました。


そのうえで、今回のケースでは原告が今後、年金を受給することなどから、住宅手当や家族手当については格差があっても不合理ではないと指摘しました。


一方で、精勤手当については仕事の内容が同じである以上、出勤を奨励する必要性に違いはないとして、格差を設けるのは不合理だと判断し、会社に対して賠償を命じました。


また、浜松市に本社がある「ハマキョウレックス」で配送の仕事をしていた契約社員の男性が、賃金の格差を訴えた裁判も1日に判決が言い渡されました。


山本裁判長は通勤手当、無事故手当、作業手当、給食手当については「職務の内容によって差が生じるものではない」などとして、契約社員に支給しないのは労働契約法20条で禁じられた「不合理な格差」にあたるという判断を示しました。


そのうえで、会社側の上告を退け、4つの手当について契約社員にも支払うよう命じた判断が確定しました。


また、2審では認められなかった皆勤手当についても差を設けるのは不合理だとして、審理のやり直しを命じました。


一方、住宅手当については、正社員には引っ越しを伴う配置転換があることなどから、不合理な格差にはあたらないと指摘しました。


手当の内容などは企業によって異なりますが、1日の2件の判決は、同じような形で手当に差を設けている企業の雇用契約の在り方に影響する可能性があります。

いわゆる「同一労働同一賃金」をめぐる政府の検討会の委員を務めた東京大学水町勇一郎教授は「予想していたよりも非正規社員にとって前向きな判決だ」と話しています。


2件の判決のうち、契約社員が起こした裁判については「2審の高等裁判所では認められていなかった皆勤手当についても踏み込んで判断している」と話しています。


また、定年後に再雇用された嘱託社員が起こした裁判については、「手当などについて、どこまでの格差を許容するかきちんと精査するように求めている」と話しています。


そのうえで、「これまで多くの企業が『働き方改革関連法案』の成立や、今回の判決の結果について様子を見ているような状況だったが、準備を加速していかなければならない状況になったと思う。企業は今回の判決内容を見て、最高裁が言っていることに対応できているか精査しなければいけないし、労働者としては自分自身の処遇を確認することが重要だ」と指摘しています。

労働契約法20条は、契約社員など有期雇用の労働者の待遇改善のため、平成25年に施行されました。


20条では有期雇用の労働者と正社員の間の待遇の違いは不合理なものであってはならないと定めています。そして、不合理かどうかを判断するにあたっては、業務の内容や責任の程度、配置の変更の範囲、「その他の事情」を考慮することとされています。


ただ、こうした要素をどのように解釈すべきかは法律で具体的に定められていないため、裁判で争われています。

「不合理な格差」を禁じた労働契約法20条の解釈をめぐっては、ほかにも裁判が起こされ、各地で争われています。


このうち、日本郵便で配達などをしている契約社員が起こした裁判では、去年、東京地裁が年末年始の勤務手当と住居手当の2つの手当と、有給の病気休暇と夏と冬の休暇の2つの休暇制度について、正社員にだけ認められているのは不合理な格差だと判断しました。


また、同じ日本郵便契約社員が大阪で起こした裁判では、ことし2月、大阪地裁が年末年始の勤務手当と住居手当に加え、扶養手当についても不合理な格差があると判断しています。


さらに、東京メトロの駅の売店で働く契約社員が起こした裁判では、去年、東京地裁が早出残業手当について不合理な格差があると認めています。

正社員と非正規の従業員の賃金には、さまざまな差があるのが現状です。


厚生労働省は、おととし、正社員とパートなど正社員以外の従業員の待遇などについて調査し、1万余りの事業所から回答を得ました。


このうち、正社員と正社員以外の従業員の両方を雇用している事業所は全体の64%で、手当や賞与などを支給しているか、正社員と正社員以外に分けて、それぞれ尋ねました。


通勤手当」については、正社員に支給していると答えたのは90.4%、正社員以外に支給していると答えたのは76.4%でした。


一方、「住宅手当」は正社員に支給していると答えたのは38.4%だったのに対して、正社員以外に支給していると答えたのはわずか1.5%でした。


「家族手当」は正社員に支給していると答えたのは49.2%、正社員以外に支給していると答えたのは2.3%でした。


「精勤手当」は正社員に支給していると答えたのは20.7%、正社員以外に支給していると答えたのは5.8%でした。


賞与については正社員に支給していると答えたのは84.6%、正社員以外に支給していると答えたのは33.7%でした。


退職金は正社員に支給していると答えたのは71.7%、正社員以外に支給していると答えたのは8.7%でした。


そして、定期的な昇給は正社員に実施していると答えたのは71.8%、正社員以外に実施していると答えたのは32.3%でした。


こうした賃金の差が仕事の内容や責任に照らして不合理なものといえるかどうかが各地の裁判で争われています。

正社員と非正規社員の待遇に不合理な差を設けることを禁じる規定は、今の国会で審議されている「働き方改革関連法案」にも盛り込まれています。法案が成立すれば、今回の裁判で争われている労働契約法20条の規定は削除され、「パートタイム・有期雇用労働法」に同じ趣旨の条文が盛り込まれます。


新たな法律は大企業では2年後に施行される予定で、業務の内容や責任の程度、配置の変更の範囲などの事情を考慮して、「不合理と認められる相違」を設けることが禁じられます。また、正社員と業務の内容や配置の変更の範囲が同じ場合は、有期雇用の非正規社員だという理由で差別的な取り扱いをしてはならないと定めています。国はこの法律に基づき、必要な場合は企業に行政指導をすることができます。


そして、法改正に伴って、どのような待遇の差が「不合理」に当たるのか具体的な事例を示すためにガイドラインの案が示されています。この案では、通勤手当と給食手当については「パートタイム・有期雇用労働者にも無期雇用フルタイム労働者と同一の支給をしなければならない」としています。また、皆勤手当、作業手当については「業務内容が同一のパート労働者・有期雇用労働者には同一の支給をしなければならない」などとしていて、これらは、今回の最高裁の判断と共通する考え方です。


住宅手当についてはガイドライン案では触れられていませんでしたが、最高裁は、今回のケースでは「正社員は引っ越しを伴う配置転換があり、住宅に要する費用が多額になりえる」として、格差は不合理ではないと判断しました。


ガイドラインの案は「働き方改革関連法案」の施行日までに決まることになっていて、厚生労働省は今回の最高裁判決の内容も踏まえて検討する方針です。


一方、正社員と定年後に再雇用された非正規社員との賃金の格差については、ガイドライン案では「今後の法改正の検討過程を含め検討を行う」という表現にとどまっています。


今回の判決で最高裁は、「格差が不合理か判断する際には、仕事の内容だけでなく、再雇用だという事情も考慮の対象になる」という判断を示していて、厚生労働省はこれを踏まえて審議会で検討することにしています。